「失礼致します」 名前様が無事に入試を終えられたその夜、ティーセットを下げようと名前様の部屋のドアをノックした後声をお掛けしましたが返事はなく、再びノックをしてみたがやっぱり返事はない。 もう一度声を掛けてから部屋のドアを開けてみれば、名前様は携帯を握ったままソファーで眠っいらっしゃった。 「名前様、起きて下さい」 「・・・ん・・・・」 軽く名前様の体を揺すってみるが、身をよじるだけ。 (困りましたね) そう思いながらも私の頬が緩む。 名前様はいい夢を見ていらっしゃるのか、少し微笑んでいらっしゃった。 名前様のあどけない寝顔をじっと見つめてしまう。 そして同時に思い出してしまうのは、病室での名前様の寝顔だった。 警察から連絡を受けて病院へと駆けつけて、手術を終えられた名前様のお顔は生気が全くなく、まるで――死んでしまっているようだった。 しかし、名前様は奇跡的に意識を取り戻し、今では日常生活を送れるまで回復なさった。 (暖かい・・・) 目の前で眠っていらっしゃる名前様の頬にそっと触れる。 ここにいる名前様が幻などではなく、本物なのだと確かめるように・・・。 名前様の膝裏に手を回し、起こさないようにそっと抱き上げてベッドまで運ぶ。 ソファーからベッドまでの僅かな距離でさえ、名前様の存在を確かめるように抱き上げる手にそっと力を入れる。 自分の体全体で名前様の体温、トクントクンと鳴る心音、微かな寝息を感じる。 そうする事でようやく、この時が現実なのだと安心出来る。 幼い頃から見守ってきた名前様もいよいよ高校生となられる。 少女から大人の女性へと成長していく名前様を、誰よりも近くで見守れる事は喜ばしい。 しかし、この立ち位置がもどかしく感じるようになる時がある。 「おやすみなさいませ・・・名前・・・様」 気持ちよさそうに眠る名前様の額に口付けた後、部屋を後にした。 →next |