消しゴムの天使


(俺としたことが、マジあり得ねぇ・・・)


鞄の中にも筆箱の中にも消しゴムは無かった。そこで漸く俺はハッと思い出した。

ここに来る前に近くのファミレスで幸村や柳に最終確認も兼ねて、勉強を教えてもらっていた。

しかし、思っていた以上に時間をくって、慌ててファミレスを後にした事を・・・。


(まさか、そこに消しゴムを忘れてきたのかよっ!!)


最悪な事にこの教室にはテニス部のヤツはいねぇし、辺りを見回しても見知った顔のヤツもいねぇ。

かといって、俺が消しゴム無しで受験するなんて無謀すぎる。


(俺だけ受験失敗・・・・)


一気に目の前が真っ暗になったその時、


「ねぇ、よかったらコレ使って」


それは正に天の助けだった。

礼を言おうと声のする方を見た瞬間、時間が止まってしまった。


――そこには、天使かと思うくらい綺麗な女の子。


彼女が俺に向かって何か言っていたが、心臓の鼓動が煩くてよく聞こえない。

すると、不意に彼女が俺の手を両手でギュッと握り締めた。

その手を開くと、真新しい消しゴムが1つ。


「・・・サ、サンキュ」


と、なんとか震える声で礼を言えば、彼女の笑顔が返ってきた。


(俺、このまま死んでしまうかもしれない・・・)


本気でそう思った。



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