今日、クラスの女子達はいつも以上に浮足立っていた。なぜなら、家庭科の授業でお菓子――マドレーヌを作るからだ。意中の男の子がいる女の子にとって、一大イベントである。


「名字さんは誰にあげるの?やっぱり佐助君?」

「いやいや。誰にもあげないよ。自分で食べる」


クラスメートに聞かれそう答えた。なんで私が猿飛君にあげなきゃいけないの?反対に、毎日セクハラされてる迷惑料としてこっちが何か貰いたいくらいだ。


「かすがちゃんは・・・」

「・・・・・・・・」



「あぁ、謙信様・・・」


「「・・・・・・・・」」


既に旅立ってしまっているようだ。周りに薔薇の花を咲かせながら、マドレーヌ作りに格闘している。

まぁ、それはいつもの事なのでそっとしておいた。

次第に甘い香りが家庭科室に漂い始める。意中の相手にあげるつもりの女の子達は、焼き上がったマドレーヌを可愛くラッピングしていく。

けれど私は自分用なので、ただ箱に詰めるだけ。


「ううっ・・・」

「かすがちゃん、私も手伝うよ」


容姿&頭脳と完璧なかすがちゃんは料理が苦手だったらしく、上手く出来なかったマドレーヌを前に落ち込んでいる。

けれどあの上杉先生の事だから、喜んで受け取ってくれると思う。


 ◇◆◇


教室に戻ってみれば、私の席の辺りは女の子で溢れ返っていた。

性格はあんなでも、彼等はモテる。私もこのクラスになる前は、カッコイイなぁと思っていたものだ。(知らない方が幸せだったなぁ)


「名前ちゃん」

「ひっ?!」


群がる女の子達をかき分けてやって来た猿飛君は、ニンマリと笑いながら両手を差し出す。


「な、何?」

「ん?ほら、俺様に渡す物があるでしょ?」

「別に・・・そんな物ないけど・・・」

「俺様の為にマドレーヌ作ってくれたんでしょ?だから・・・」

「はい?自分で食べるつもりなんだけど」

「えぇ〜、それはないでしょ・・・」


ガックリと肩を下ろした猿飛君。「楽しみにしてたのに・・・」とブツブツ文句を言っていたかと思えば、


「あぁ、そうか」


急に顔を上げて、さっきまでの表情と反対にニヤニヤしながら私の肩を抱いてきた。


「ちょっと、放して・・・」

「他の子達は皆断ったから・・・、そっかぁ・・・妬いてたんだぁ」



誰が妬くかっ!



どうやら猿飛君は自分に都合がいいように、勝手に勘違いしたらしい。

誰もそんな事言ってないし、私がいつそんな態度を見せた!


「俺様は名前ちゃん以外の子から受け取るつもりないし・・・」


猿飛君は私をさらに抱き寄せて、私の耳元に顔を近づけた後、


「名前ちゃんごと食べたいくらいなんだけど・・・」


とびきり甘い声でそう囁いた後、カプッと私の耳を甘噛みした。



食べちゃうぞが冗談に聞こえません



「なっ!今、耳・・・」


真っ赤になって耳を手で押さえた私に、猿飛君は満足気に笑い、今度は耳を押さえていた手に、チュと唇を落とした。



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