幸村がゆっくりと振り返った。

俺は一歩前に出て、幸村の視線から名字を庇う。

以前ならこんなことする必要等なかったのにな…。

今の幸村、いや、幸村だけでなくおかしくなってしまった俺の大切な仲間達は、マネージャー以外の女子に対して冷たく当たるようになってしまった。


「……何?」


冷たい視線と声。

こんな幸村を見るのが初めてというわけでもないのに、俺の心が小さく悲鳴を上げたのがわかった。

それでも、その悲鳴に気づかないふりをする。今、俺一人ではなく、名字も一緒にいる。

彼女を怯えさせるわけには、傷つけるわけにはいかない。

その一心で、以前と同じように振る舞う。


「いや、見かけたから声をかけてみただけなんだが…」


必死に平静を装ってみたが、俺の声は微かに震えていた。



  ◇ ◆ ◇



(ジャッカル君…)


私は目の前の大きな背中を見つめながら、ギュッと唇を噛み締めた。

私は知っていたけれど、知らなかったんだ。

実際にテニス部の練習を見に行ったし、テニス部の現状について話も聞いていた。

けれど、ジャッカル君とテニス部の人とのやり取りを目の当たりにしたことはなかった。

それはつまり、こうしてジャッカル君が傷ついている場に立ち会ったことがなかったということ。

それは私が思っていた以上に悲しくて、私の胸を締め付けた。


「っ、名字!!」


いつも笑顔で…なんて、そんな高望みはしないけれど、そんな顔したジャッカル君は見たくなかった。





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