まるで頭の中に霧がかかったようで、自分の夢や目標、今まで大切にしてきたモノが全て色褪せて見える。

――絵美のこと以外は。

彼女の姿を見た瞬間、身体中に電気が走った。

彼女に出逢うために、俺は生まれてきたのだとさえ思った。

それほどの衝撃を受けたんだ。

彼女が笑ってくれる。

ただそれだけで、まるで天国にいるかのような幸せに包み込まれた。




(けれど、本当に俺は幸せなのだろか?)




不意に不安に襲われ、そう自身に問いかけるが、彼女の姿や声を思い浮かべれば、どうでもよくなってくる。

俺に問いかける声は小さくて、彼女の面影に掻き消されてしまい、最終的にはやっぱり俺は幸せなのだと思ってしまったんだ。








どんなに幸せな気分に浸っていたって、俺自身に問いかける小さな叫び声は消えることはなかったのに…。


  ◇ ◆ ◇


「…幸村」


声のした方を見れば、そこにはジャッカルの姿があった。幸せな気分で絵美のことに耽っていたのに、それを邪魔された気がして、若干眉が寄ってしまう。

真田といい柳といい、どうしてこうもテニス部の連中は俺と絵美の邪魔をするんだ。

自分勝手な俺はそんなことを考えていて、ジャッカルの悲痛な瞳に気づけなかった。





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