部活が終わり、俺はいつものようにある場所へと向かっていた。

その場所に向かう前に何度も携帯に掛けてみたが、案の定名前は出なかった。



少女A
についての考察 01



名前のいる教室に入るが、アイツは全く俺の存在に気付いていない。ただひたすらにカンバスに向かっている。

これもいつもの事だ。

俺は近くにある椅子に腰を掛けて、名前の姿をじっと見つめる。どんなに視線を送ってもカンバスに向かっている名前は気付きはしない。

声を掛けたとしても結果は同じ。

今、名前の世界には誰も立ち入る事など出来ないからだ。

ひたすらキャンバスに色を重ね、時折目を閉じて名前は自分の心と対話する。そしてまたカンバスに向かうのだ。

今名前が描いているのは、風景でも物でも人物でもない。


――名前の心の中にある何か。


名前が描く世界は、時に美しく、時には幻想的に、時には荒々しく、時には恐怖さえ感じてしまう。

名前の世界、そして名字名前という人間は常に俺を魅了する。

ふぅ〜っと名前が息を吐く。

これが名前が俺のいる世界へと帰ってくる時の合図だった。


「あれ?跡部君いたの?」


そしてようやく俺に気付く。「今更かよ…」と呟けば名前は「ごめんね」と苦笑する。


「…にしても、名前」

「ん?」

「今は俺とお前の二人きりだ」

「だから?」

「……………」

「……………」


片付け終えると、ようやく名前は俺の方に振り返った。そして俺は名前が振り返るタイミングに合わせて、名前から視線を逸らす。

名前は分かっているはずだ、どうして俺がこんな態度をとるのか…。


「……しょうがないなぁ」


そして俺も分かっている。この後に名前がどういう行動に出るのかを。


「…ごめんね、"景吾"」


そう言って名前は俺を抱き締めて、まるで子供をあやす様に俺の頭を撫でる。俺も名前に縋る様に抱き締め返す。

クスクスと笑う名前の声が頭上から聞こえる。名前は俺と二人きりの時でしか"景吾"と呼ばない。

理由は簡単で単純。

今の俺には彼女がいるから。

その女の事が好きだというワケじゃない。ただの、捌け口であり名前への当て付けでもあった。

その女と付き合う事にしたのは、その女の声が名前の声と少しだけ似ていたから…。

ただそれだけ。





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