煩い部室を後にし、さっさと家に帰る事にした。 これ以上、あんな下らない会話をしたくないし、耳に入れたくもなかった。 小さくため息を吐いた時、不意に感じた視線。 「………っ?!」 そこにいたのは、あの下らない会話の中心人物である名字先輩だった。 先輩は俺と目が合うと、いつもの様ににっこりと笑う。 「…俺は、あの人達とは違います」 そんな仮面みたいな笑顔を見せられたって、俺は騙されたりはしない。 「吐き気がします。そんな胡散臭い顔して笑わないで下さい」 俺が吐き捨てるように、そんな言葉を発しても、名字先輩は顔色一つ変えず、笑顔のままだった。 「そこまで"真っ直ぐ"に嫌われたのは初めてだよ、日吉君」 そう言って、嬉しそうにクスクスと笑う名字先輩。 全く意味が分からない。 何故、そんな風に笑えるのか…。 けれど、その時に見せた名字先輩の笑顔は、今まで見た中で1番マシのように思えた。 「ねぇ…、日吉君?」 「………」 返事をする代わりに、名字先輩と視線を合わせる。 「これからも、私の事をそのまま真っ直ぐに嫌っていてね」 さっきまで笑っていたのが嘘みたいに、無表情のままそう俺に告げた。 しかし、それも一瞬の事で、名字先輩はまたにっこりと俺に笑いかけた後、何事もなかったかのように校門の方へと歩いていった。 (…何だって言うんだ) 俺は、無表情の名字先輩の顔を初めて間の当たりした事を処理しきれず、暫くの間、呆然と立ち尽くしていた。 「フン、……言われなくても貴方を嫌いなままでいますよ」 きっと、誰も名字先輩のあんな顔を見た事はない。―――跡部さんでさえも…。 自然と口元が上がって行くのを感じながら、俺は再び歩きだした。 ◆日吉若の見解◆ 大嫌いな女 (これから先も、絶対に) (…好きになったりはしない) (あんな顔が見られるなら) 090814 加筆修正 |