「…自分、バレバレやで」


部活終了後、いつものように部室で着替えていると、忍足先輩がそう呟いた。

誰に話しているのか分からず忍足先輩に視線を向けると、俺の視線と交わる。

そこでようやく、それは自分に向けられた言葉だと分かった。


「………何の事ですか?」

「名字…、いや、名前の事や」




「忍足先輩には関係無い事だと思います」


俺がそう返すと、微妙な空気が部室内に広がった。


「忍足、お前が一々口を挟むなよ」

「…宍戸かて気付いてるやろ?鳳の事も跡部の事も」

「そりゃ…、けど跡部の場合は自業自得じゃねぇか」

「まぁ、確かにそうやけど。――けどな、名前が鳳の気持ちを受け入れるワケないやろ?」

「…………」


忍足先輩のその言葉を聞いて、思わず無言で睨み付けてしまった。

そんな事は言われなくても分かっていたし、それ以上に忍足先輩が名字先輩の事を"名前"と名前で呼んでいる事や、恰も自分の方が名字先輩を理解している様な言い回しをする事が気に食わなかった。



―――バンッ



と、俺は思いっきりロッカーを閉めるとそのまま部室を後にした。

こんな事をするのは、自分らしくないのは分かってる。それでも、自分の気持ちを抑える事が出来なかった。









「鳳君?」


部室から出た後、帰る気にならず立ち尽くす俺の耳に、優しい声が響いた。


「…名字……先輩…」


名字先輩の瞳に俺が映っている。

ただそれだけでさっきまでの怒りが消えて、同時に自分の取った行動が急に恥ずかしくなった。


「……大丈夫だよ」


そう言って微笑みながら、名字先輩は俺の頬にそっと触れた。

その瞬間、俺の目からボロボロと涙が溢れる。


「…お、俺………」


言葉にしたいのに、涙がそれを邪魔して上手く言葉に出来ない。

このもどかしい想いを少しでも伝えたくて、思わず目の前にいる名字先輩を抱き締めた。

想像以上に名字先輩の体は小さくて、俺の腕にすっぽりと入ってしまった。



けれど、

どんなに抱き締めても、俺の想いが伝わる気がしなくて…、情けない事に、俺はさっき以上に泣いてしまった。















◆鳳長太郎の見解◆
  俺に苦しみを教えてくれた女
 (どんなに苦しくても)
 (彼女を追い続けるんだ)



 加筆修正 090811


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