名字先輩はこの学園内でも有名な人で、俺は1年の時から名字先輩の名前だけは知っていた。

テニス部に入部しても、遠くから跡部部長と話す名字先輩を眺めていただけだった。

とても遠い人…。



少女A
についての考察 06



「名字、今度から俺とダブルスを組むことになった…」

「鳳長太郎ですっ!」


俺は思いっきり頭を下げた。

そんな俺の目の前にいたのは、名字先輩。

放課後、宍戸さんと部室に向かう途中で名字先輩を見かけた。宍戸さんも名字先輩に気付いたらしく、名字先輩に声をかけて俺を紹介してくれた。


「名字名前です…よろしくね、鳳君」


頭を下げたままだった僕の頭上からその声と共に、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

途端に顔がかぁっと熱くなる。

だって、あの名字先輩が目の前にいて、笑ってるんだから。

そんな俺に宍戸先輩が「激ダサ…」なんて言ってたけど、俺の耳に入って来る事はなかった。





その日以来、俺は今まで以上に名字先輩を目で追うようになっていった。

そして気付いたんだ。

名字先輩は俺が思っていた以上の人だったという事に…。

テニス部のファンの人達や跡部部長の彼女に酷い事を言われたり、嫌がらせされても、それを笑顔で許して、皆の前でそんな事があったなんて微塵も感じさせない。

だから俺も――名字先輩を見習って、何があったって動じないで笑顔でいる事を心がけるようにした。

そうする事で知った事がたくさんある。

そうする事で分かった事がたくさんある。

――そして、俺は次第に名字先輩を憧れの人としてではなく、一人の女性として想うようになっていった。

最初は遠くから名字先輩を眺めているだけで十分満足してたはずだったのに、次第にそれ以上を望んでしまうようになってしまった。

名字先輩の声が聞きたい。

俺の名前を呼んでほしい。

それだけじゃなくて…、



触れたい。

抱き締めたい。



名字先輩の特別な人になりたい。






それがどんなに難しくて高望みな事だとは分かっていたけれど、日に日にその想いは大きくなっていき、俺の心の奥底に積もっていった。


「俺じゃ、駄目ですか…?」



俺の視界に入っている名字先輩の小さな背中に向かって、そう呟いた。







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