「あーっ、ようやく終わったぁー!」

「お疲れさま」


課題が終わった時には、もう日も傾いていて空だけじゃなくて教室までもが茜色に染まっていた。

開けていた窓から入ってきた風が俺と名字の髪を揺らす。

帰ろうと席を立った名字に俺は前に侑士に尋ねた質問を無意識の内に口に出していた。


「…イヤじゃねぇの?」

「………えっ?」




「あ、いや、そうじゃなくて…」


名字のびっくりしている表情を見て、思わず弁解してしまった。


「…いや、ほら、跡部ってさ…名字が他のヤツと仲良くすんのイヤがるじゃん?…だから…」


言葉を濁す俺を見て、名字はにっこり笑って答えた。


「イヤじゃないよ」


「え?何で?」と思ったのが表情に出ていたのか、名字は俺の顔を見てクスクス笑い出した。


「もし私が跡部君以外の人と仲良くなったりしたら、今以上に部活の練習が厳しくなると思うけど…それでもいい?」


その言葉に、俺は「うげっ」と顔を歪めた。

否定出来ねぇ…。

確かに侑士とか宍戸とかが名字と話した日は、メニューはいつも以上の量になっていた。

跡部って名字の事、好きなんだろ?

じゃあ、名字は?

なんで跡部は名字じゃない女と付き合ってんの?

次々と疑問が浮かんでいく。


「跡部君は大切な"幼なじみ"、…ただそれだけ」


名字は窓から見える夕焼けを、どこか遠くを見つめていた。

跡部を大切だと言ったその言葉に、なんだか俺は違和感を感じた。

大切だけど、大切じゃないというか…。

上手く言葉に出来ない。

名字の言葉に納得出来ない自分が不思議だった。

名字の眼差しはこんなにも優しいのに…。

















「…って事が昨日あったんだけど」


次の日の朝、侑士に名字とのやり取りを話した。


「思ってた以上にがっくんは鋭いんやなぁ」


と、侑士はからかうように俺の頭を撫で回した。


「"鋭い"って何の事だよ?意味分かんねーし」

「…まぁ、分からん方がえぇと思うで」

「クソクソ!」


結局、俺が分かった事は名字に質問の答えを上手くはぐらかされたって事だけだった。


「あ"ーっ、分かんねぇっ!!」











◆向日岳人の見解◆
  疑問だらけの女
 (話せば話すほど、)
 (名字という人間が)
 (分からなくなっていく)


 加筆修正 090810



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