「ハァ〜、マジかよ…」 廊下の窓から覗いてみれば、跡部と跡部の彼女が寄り添う姿が見えた。あの中に入っていく勇気なんてもんは俺にはない。 跡部の彼女は俺の一番苦手なタイプの女だし、若干跡部の機嫌も悪い。 「なぁ、名字。これ跡部に…」 「残念ながら無理だよ。…跡部君の彼女に"近づくな"って釘をさされたからね」 「えっ?!…マジで?」 「うん、マジで」 「女って怖ぇー」と呟いた俺に、名字はクスクスと笑っていながら口を開いた。 「私も一応…女なんですけど?」 「や、…悪ぃ…そんなつもりじゃ…」 名字はまたクスクスと笑い出す。 確かに名字は女だ。でも苦手じゃない。それどころか、名字の持つ雰囲気は結構好きだったりする。 穏やかで、静かで…ホッとする。 「どうかした、宍戸君?」 「…っ、何でもねぇ」 無意識のうちに名字を見つめていた自分に驚きながら、視線を逸す。 「あれ?跡部君がこっちに気付いたみたい」 最悪だ…。 中庭を見て見れば、俺を睨みつける跡部の姿。 その理由は、俺と名字が2人で話をしていたから。 彼女持ちが彼女でもない女にヤキモチって…。 そんな跡部の様子に跡部の彼女も気付いたらしく、こっちに振り向いた。名字の姿を見つけると、途端にその表情が変わっていく。 勝ち誇った様な、まるで名字を見下す様な嫌な視線だった。 そんな彼女の様子に名字はただ苦笑い。俺はただ呆れるだけだった。 あんな女と付き合っている跡部の気が知れねぇ。 「仕方ねぇ、跡部んとこ行ってくるか」 「頑張ってね」 「あぁ」と名字に返事をして、重たい足を動かした。 もうちょっと、名字と話してたかったな…。 ふとそんな事を思い、やらたと恥ずかしくなった。 「あ、そうだ…名字」 「ん?」 「今度お前に話したい事があんだけど…」 「何かよく分からないけど…分かった」 「サンキュ」 「バイバイ」と手を振る名字を背に、今度こそ跡部の元へと歩きだした。 ◆宍戸亮の見解◆ 安らげる女 (隣にいたい…なんて) 090809 加筆修正 |