「ここ一週間、毎晩同じ夢を見ていたんだ。俺はもう社会人になっていて、どうやら新婚らしい。朝は奥さんに優しく、おはようのキスで起こされて、名残惜しい中出勤。あ、勿論いってきますのキスをしてからね。で、昼は毎日ハートがいっぱいあしらわれた愛妻弁当を食べて、仕事が終わったら残業も付き合いも断って真っ直ぐに家に帰って“ただいま”と奥さんを抱きしめてキスして…。あぁ、朝と違ってキスだけじゃ済まない事も多々あるんだけど。仕方ないよね?あんな嬉しそうな笑顔で抱きつかれたら。俺だって男だし、あっという間に理性なんか吹っ飛んじゃうよ。そうそう、肝心な事を言わないとね。 どうやらその奥さんって君みたいなんだ」 朝、欠伸を噛み殺しながら自分の教室へ歩いていた時だった。 この学校で知らない人はいない、と言っても過言ではない人物が前から歩いてきた。 本来ならばすれ違って終わり。だって、私と彼は全く接点などないのだから。 なのに、だ。 すれ違いざまに彼が私の手首を掴んだのだ。驚いた私が振り返った瞬間、冒頭の長ったらしい台詞が彼の口から出てきた。 「……………」 その時の私は今までの人生の中で、一番間抜けな顔をしていたと断言出来ます! 私だけじゃなくて、この場に居会わせた全員が私と同じ様な表情をしていたことでしょう。 ただ、目の前の人物だけが笑みを浮かべていた。 「あ、あの…」 いまだに私の頭は混乱していたが、なんとか口を開く事が出来た。 今の出来事は現実なのか? だって、あの“幸村精市”がだよ?テニス部の部長で、頭が良いだけじゃなく美少年でもあって、女生徒から絶大な人気があって、どんな美少女からの告白にも首を縦に振らなかった、あの“幸村精市”だよ?! 私はまだ寝ぼけているのか?! いやいや、もしかして罰ゲームかなにかなのか?! 今年からエイプリルフールが今日に変更されたとか?! → [*前] | [次#] |