時が止まってしまったかのように動かない体。殴られた頭の痛みすら、どこかに飛んで行ってしまった。

先程の声の主は、私の背後にいると思われる。私の視界にいる友達の顔は、今まで見たことがないくらい真っ青で、あぁ、彼の本性に気づいた人が私以外にもいる、と内心喜んでしまった。


「で、どこの誰が具合悪いんだっけ?まさか、君じゃないよね」

「「…………」」


な、なんなんでしょうか。体に重くのしかかる圧力は?


「未来の旦那様を無視?へぇ〜、いい度胸してるよねぇ」


グンッと更に重くなる圧力。い、息が、苦し…い。もう私には友達を気にする余裕さえなくなっていた。デッド・オア・アライブなこの状況下で、迷うことなく私はアライブを選んだ。

ギギギと音がするかの様に、ゆっくりとそしてぎこちなく振り返った。動きが遅いのは、私のささやかな抵抗だ。アライブを選んだけれど、デッドの文字がちらちらと頭を霞める。


「(ひぎぁあぁー!!!!)」


振り返った私を待っていたのは、魔王…じゃなくて幸村君のそれは素敵な笑顔でした。思わず口から飛び出しそうになった悲鳴を、口を両手で塞ぎどうにか飲み込む。


「で、俺に何か言うことは?」

「き、今日も、す、素敵な、笑顔…です、ね。ハハハ」


引き攣った愛想笑いにお世辞―棒読みな為、お世辞になっていないけれど―を返すのが精一杯な私。それを見た幸村は、冷たい視線と共に私を鼻で笑った。


「今日の昼休みは弁当を持って、俺の教室まで来てくれるよね」


幸村君はとっても素敵な笑顔で爆弾を投下。彼の背後から溢れ出している黒い靄(オーラ)に気付かない女子が、その笑顔にキャーキャーと騒ぎ出す。気付こうよ、皆!

今の台詞にしたって、私にはこう聞こえる。


『昼飯持って、俺の教室まで来い。なんでかって?ハッ、この俺と一緒に昼休みを過ごせるんだから感謝しろよ。それに、なんでわざわざ俺が迎えに行かなきゃならないんだ。面倒くさい。つーか、


逃げられると思うなよ』



死亡フラグが立ちましたー!


「それじゃ、昼休みに」


言うだけ言って、颯爽と去っていった幸村君。

残された私と友人の気力が0になったのは言うまでもなく、女子からの敵意むき出しの視線が私に止めを刺しました。




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