久々に自由な時間が取れた俺は、甲斐の城下町を歩いていた。 特にこれといって用がある訳ではない。 武田との同盟を結ぶ為に甲斐まで政宗様のお供として共にやって来たのだが、せっかく甲斐まで来たのだから、この町の様子を直に見て回りたかったのだ。 ここ甲斐の国も奥州に負けず劣らず、活気に満ち溢れていて行き交う人は皆笑顔だ。 ある店の前で、ふと俺の足が止まる。 まるで何かに導かれるかのように、俺は躊躇うことなくその店の中へと入っていった。 店の中には色々な色で溢れていた。 そう、その店は簪や櫛を取り扱っている店だったのだ。 品物を見て回っていると、ある簪に目が止まる。 その時、背後から「いらしゃいませ」と品のいい店の主人に声をかけられた。 その主人は俺が目を止めた簪を見ると、「少々お待ち下さい」と告げ引き戸や窓を次々と閉め始めた。 困惑する俺をよそに次第に薄暗くなる店の中。 暫くすると店の主人はロウソクを手にして戻ってきた。 「この簪に付いている玉は藍玉と言いまして・・・、このロウソクの灯りにかざしてみて下さい」 ニッコリと人の良さそうな笑顔と言葉に促され、俺は言われるまま手に取った簪をかざした。 まるで海の様な色がより鮮やかに輝き始め、その海の色の中から碧色が浮き出される。 「・・・これは・・・」 「こうすると、より綺麗に輝くんですよ」 藍色の中から生まれた碧色。 まるで、俺が心の奥底に沈めている願いそのもののようだった。 普段ならこのような店に入るなんて事は決してない。 しかし、今日この店に立ち寄ってしまったのは、この簪に施された藍玉に呼び寄せられてしまったからではないか・・・と、柄にもなくそう思ってしまった。 →next |