呆気に取られた皆を後目に、蔵は私の手をギュッと握り直すと、そのままその場を後にした。 (うわぁ〜、恥ずかしい・・・) 今みたいに素直に言葉にされると、恥ずかしさで居た堪れなくなる。 今日は私の彼氏である蔵が、わざわざ大阪からやって来てくれた。 その事を立海の皆に話したところ、何故か待ち合わせ場所まで付いて来て、その上・・・、 ――『名字のどこが好きなのか?』 『本気なのか?』 等と待ち合わせ場所にいた蔵に質問を投げ掛けたのだ。 私が蔵と付き合うまでの経過を知っているだけに、心配してくれた結果がこれ等の質問だったと思う。 けれど、その質問に対する蔵の答えが予想以上だったせいか、私も立海の皆も唖然としてしまったのだ。 友達の前であんなに平然と“どれほど私の事が好き”か語られるなんて・・・。 (あぁ、明日どんな顔して皆に会えばいいのっ?!) あっちの世界でも、そんな事を大っぴらに語られた経験なんてモノはない。 「あーっ、スッキリしたっ!」 私の手を引いていた蔵が、突然そう口にした。 「前からちょっと不安やってん。これで立海の奴等も名前にちょっかい出さへんやろ」 そう言って、見惚れる程の笑顔を見せた蔵。 いつだって、真っ直ぐに気持ちを言葉や態度で私に示してくれる。 初めこそ、そんな言葉や態度に困惑したけれど、気が付いた時には・・・そんな言葉や態度が私の心を蔵で一杯にしてしまっていた。 「うわぁ、名前の顔真っ赤になってんで」 「あ、あんな事、皆の前で言わなくたって・・・」 「そんな顔した名前も、勿論可愛えぇで」 「・・・・っ!」 (だから、ストレートな言葉には慣れてないんだってっ!!) いつだって、私は蔵の全てに翻弄されてしまう。 「んじゃ、デートがてらにに青学と氷帝にも行こか」 「・・・えっ?」 「俺の愛の丈をアイツ等にも語ったらななぁ」 あんまり可愛い顔して微笑むもんだから、文句が言えなくなってしまう。 蔵に翻弄されてばかりの私だけど、そんな蔵を好きになってしまったのは私だから・・・、自業自得だ。 ―惚れた者の負け。 そんな言葉が、私の頭をよぎっていった。 →next [*前] | [次#] |