「どうかしましたか、幸村君?」 「・・・いや、ちょっと思い出してたんだ。名字さんと初めて会った時の事を」 「そう・・・ですか」 物思いに耽っていた俺に、心配そうに柳生が声を掛けた。 俺達の視線の先にいるのは、楽しそうに笑っている名字さんの姿。 「今はちゃんと笑っているみたいだね・・・」 「何かおっしゃいましたか?」 「いや、別に何も言ってないよ」 思わず呟いてしまった言葉。 以前の彼女は何をするにしても、その前に一瞬何か考えている節があった。 まるで、自分がどう行動するのが正しいのか考えている様な…。 だからこそ、こうして彼女が“本当の顔”を垣間見せてくれるようになった事を、本当に嬉しく思う。 「幸村先輩、柳生先輩、2人揃ってそんなとこで何やってるんスか?」 「早く来んと、全部ブンちゃんの腹ん中に入ってしまうぜよ」 「おい、ブン太!お前一人で食べ過ぎだろうが・・・」 「いいんだよぃ!こういうのは早いもん勝ちだろぃ」 「いい加減にせんかっ!名字はお前一人の為に差し入れしてきたのではないのだぞっ!!」 「もっとたくさん作ってきた方がよかったみたいだね」 「・・・今日の丸井の食欲はいつも以上の様だな」 相変わらず騒がしいメンバーに、俺と柳生は苦笑するしかなかった。 「このままじゃ、本当に俺達の分までなくなってしまいそうだね」 「そのようです。・・・全て無くなる前に行きましょうか」 「あぁ」 本当は今でも時折、壁を感じる事がある。 けれど、同じ時を過ごしているうちに少しずつ無くなっていったのは確かだから、これから先もこうして同じ時を過ごしていけたら・・・と、そう願うんだ。 もし君が俺達と距離を置こうとしたって、そう簡単にはさせないから、覚悟しててほしいな。 きみのそばにいたいだけ (…ところで、俺と柳生の分は?)(ふえっ?ちゃんと別に取ってあるんだろぃ?)(えっ?取ってないよ)(………)(フフッ、まさか本当に全部食べてしまうなんて…ね)(ちょ、ちょっと待っ……ギャアァァッ) →end&後書き [*前] | [次#] |