彼女を見かければ声を掛ける。 そして他愛ない会話をする。 いつの間にか俺達の中に彼女がいるのが当たり前になっていて、いない方が逆に違和感を感じるくらいだ。 初めてあった時は、こんな風になれるなんて思いもしなかった。 きっとそう思っているのは俺だけじゃないはず。 初めて名字さんと言葉を交したのは、高校に入学して間もない頃だった。 オリエンテーションの為に集まった体育館で、後ろから真田に声を掛けられて驚いた顔をしていた。 その表情が何だか可愛くて、思わず笑みが溢れてしまったのを今でもはっきりと覚えている。 けれど、それも一瞬の事でどこか大人びた雰囲気を漂わせ、俺達を真っ直ぐに見つめていた。 他の連中はそんな名字さんに好感を持ったみたいだったけど、俺は気付いてたんだ。 ―君が無意識に俺達との間に壁を作っていたという事に。 →next [*前] | [次#] |