転校生として立海にやってきた名前。 何でも以前いた学校は、金だけじゃなく家柄までも重視される有名なインターナショナルスクールに通っていたそうじゃ。 そんな彼女が立海にやって来たのは、なんでも“庶民感覚”というのを学ぶ為。 初めこそ、そんな彼女は反感をかったが、徐々にそんな物はなくなっていった。 学校帰りの買い食いや、寄り道。 屋上の地べたや中庭の芝生の上に、そのまま座ったり寝転んだり。 俺達にすれば、当たり前すぎる事柄。 その全てに、名前は瞳をキラキラと輝かせて、本当に楽しそうで、嬉しそうだった。 そんな彼女は次第に皆から好かれ、可愛いがられるようになっていた。 それだけじゃなくて、 ―『私、こんなに楽しい事初めてだよ』 そう言って俺に微笑んでくれた名前の顔が、いつしか俺の心に焼き付いて離れなくなってしもうた。 それに気付いた瞬間、溢れ出した想い。 それを止める術を俺は知らん。 「・・・好きなんじゃ」 名前の小さな体を抱き締めながら、そっと耳元で囁けば、 「・・・っ、仁王・・・君」 遠慮がちに、震える小さな手が俺の背中にまわされた。 「有り難う・・・でも、ゴメン・・・ね」 自分が好きになった人が、同じ様に自分を好きになってくれた。 そんな奇跡が起こったというのに、名前は悲しそうに笑って、涙を流す。 「謝らんで・・・、名前の本心をちゃんと聞きたいんじゃ・・・」 俺が何度そう言っても、名前は小さく首を横に振るばかり。 その小さな体には、多くの者の未来が重く押し掛かっている。 だからこそ、俺は名前の本心を言葉にして欲しかった。 →next [*前] | [次#] |