「ムッ、俺とした事が・・・」 「どうしたんだ、弦一郎?」 放課後、空き教室を借りての自主的なミーティング中の事だった。 なんでも真田が今日のミーティングに関するプリントを持ってくるのを忘れたらしい。 こういった類の物は、大抵柳が持っているもんだが、なんでも休み時間に2人でその件を話したらしく、そのまま真田が預かっていたそうだ。 その事を、真田自身も忘れていたらしい。 珍しい事もあるもんだ。 俺は大きな欠伸をしながら、そんな事を思った。 高校に入っても、三強は難なくレギュラーを獲得した。 けど、俺を含む他はそうはいかなかったのだ。 目指せレギュラー!という事で、こうして俺達だけのミーティングを定期的に開いて練習メニューなんかを話し合っている。 「フフッ、それじゃあブン太に取りに行ってもらおうかな」 「うげっ!」 そういった役目はジャッカルなハズだろぃ!と思った所で、幸村君に意見出来るワケもなく、 「随分と眠たそうだったから、眠気覚ましには丁度いいだろ?」 と言われれば、従う他に道はなかった。 ◇◆◇ そんなこんなで、しぶしぶながら真田の教室まで来てみれば、そこには名字さんの姿があった。 (こんな事なら、ちゃんとドアを開ければよかったぜぃ・・・) 不機嫌だった俺は、ドアを力任せに足で開けた。 その音で名字さんを驚かせてしまっただけじゃなくて、そんな姿まで見られてしまったのだ。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・ま、丸井君?」 唖然としてしまった俺は、片足を上げた状態で固まってしまう。 けれど、名字さんの声で我に返り、慌てて片足を下ろした。 「わ、悪りぃ・・・じゃなくて、ゴメン。まさか誰かいるとは、お、思わなくって・・・」 謝りながら、さっきは乱暴に開けたドアを今度は丁寧にゆっくりと閉めた。 「ううん、気にしないで。ちょっとビックリしただけだから」 そう言って微笑んでくれた名字さんを見た瞬間、さっき以上に俺の心臓が高鳴っていく。 それだけじゃなくて“2人きり”という、この嬉しすぎる状況が俺に襲いかかってきて、カァーッと顔だけじゃなくて体までも熱くなってきた。 →next [*前] | [次#] |