いつもより懐が暖かかった俺は、ある店で一人呑んでいた。その店は歌舞伎町ではあまり見かけない落ち着いた雰囲気を持つ店だった。一人で呑みたい時は大抵この店に行く。そして、俺がその店で二杯目の酒を注文した時だった。


「久しぶり」


そう言って俺に声をかけてきたのは、一年程前に別れた女である名前だった。


「久しぶりって、この間も会ったじゃねぇーか」

「あれは会ったっていうよりも見かけたって感じでしょ?それに、こうして二人っきりなのは久々じゃない」


そう言って名前は俺の隣に座り、バーテンに酒を注文する。

名前の以前より大人びた横顔を見ながら、俺は名前と付き合っていた頃をぼんやりと思い出していた。俺達は恋人というよりも、お互いに言いたい事も言い合える悪友という感じだった。そのせいかわからないが、強がりな名前が俺に甘えたり頼ったりすることは一度もなかった。何でも一人で抱えて込んでしまう性格だと以前からわかっていたが、俺が必要とされていない気がしてしまったんだ。

『なぁ、お前さ…』

その言葉の続きを、俺はいつも飲み込んでしまって、強がる名前にただ溜め息を吐くだけだった。

別れを切り出したのは俺からだ。他に女が出来たと告げたその時でさえ、名前は涙一つ溢さなかった。

名前の次に付き合った女は、名前とは正反対のタイプの―甘えたで、泣き虫で、支えたいと思わせる―女だった。

けれど、暫くして俺は大きな思い違いをしていることに気付いた。








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