今日は私の人生の中で、初めて主役になれた日。

真っ白なウェディングドレスで身を包み、隣には愛しい貴方。祝福の中、私は幸せを全身で感じている。

なんとなく視線を感じて、その方向を見てみると、そこには私の愚かな過去が立っていた。


――坂田金時


以前、私は友人に連れていかれたホストクラブで金時という男に入れ込んでいた。

彼が見せてくれた世界は、色鮮やかで眩しかった。腰が砕けるような甘い言葉、それはまるで甘美な毒となって私を侵していった。

気が付いた時には、身も心も彼に溺れてしまっていた。


『名前だけは、特別だから』

『愛してる』


私は毎日のように店に通い、彼に群がる女達と競うようにボトルを入れ続けた。

けれど、その夢はあっけなく終わりを告げる。


『あ?金ねぇの?んじゃ・・・もうお前なんていらねぇや』


嘘で塗り固めた夢は、途端に悪夢と化した。

泣きすがる私を彼は見向きもせず、突き放し去っていった。

私に残されたのは、残高0の通帳と多額の借金だけ。



身も心もボロボロになった私を支えてくれたのが、今私の隣にいる人だった。

金時という毒を、彼はゆっくりゆっくりと解毒してくれた。

そして、私は今までみたいな服を着なくなった。今までみたいなメイクもしなくなった。今までみたいなヒールを履かなくなった。

それは全部、金時が好きだと言っていた服だったりメイクだったりヒールだった。






彼も一緒に私の借金を返してくれた。全額返済が済んで、それから二人で結婚資金を貯めた。

そして、今日この日を迎える事が出来た。


バカね。彼がこんな場所にいるハズがないわ。私を覚えてすらいないでしょ?あの頃と比べたらずいぶん地味になったもの。でも、あの頃よりも幸せなのよ。彼と出会って、ようやく『愛してる』の本当の意味を知った気がするわ。



真っ白に染まった
過去の残像




煌びやかな世界でお姫様にはなれなかったけれど、そんなお姫様よりはずっと幸せなの。




 090521




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