仁王雅治という男は非常に嫉妬深く、その嫉妬の対象は男だけでなく女友達や家族にまで及ぶ。

そして今も、現在進行形で一人の友達を失った。






図書室の奥にあるこの場所は、私の指定席のようなものだった。

窓から見える1組の男女。

それは私の彼氏である仁王雅治と私の事を親友だと言っていた女友達。

雅治は彼女の肩を抱き、指先で彼女の髪を絡ませながら、耳元で何か囁いている。

彼女の頬が赤く染まっていった事から、おそらく雅治は愛の言葉でも彼女に囁いたんだろう。

次第に私の眉間に皺が寄る。

雅治は私のその表情を見た後、満足そうに口元だけで笑い、私と見つめ合ったまま彼女に唇を落とした。

言っておくが嫉妬したワケじゃない。

嫉妬なんて今更で、そんなモノはとうの昔に抱かなくなってしまった。

ただこの後の面倒な展開の事を思うと、気が重くなっただけ。


(2・3日後ってところかな・・・?)


彼女が泣きながら私に雅治と別れてほしいと言い出すのは…。

雅治は何時からか、私の友達と分かっていて手を出す様になった。

いや、私の友達だからこそ手を出すのだ。

今では雅治と仲良くなる1番の近道は、私と仲良くなる事――そんな事が噂されている。

最初はそんなつもりがなくても、大抵の女の子は雅治に本気で溺れてしまう。

けれど雅治にしたら彼女を私から引き離すのが目的なワケで、彼女が私にそう言った時点で雅治の目的は達成されたも同じ。

だからそれは彼女と雅治の関係の終わりをも意味する。

そうしてまた私は、雅治への純粋な想いを失っていくのだ。


(あの子で何人目だっけ?)


それすら分からなくなった。



いつからこんな事になってしまったのか?

いつからこんな愛情表現しか出来なくなった?

これは愛情表現なのか?


もうそんな事すら分からなくなってしまった。


「ここにいたんだね、名字さん」

「幸村君・・・」

「もうそろそろだと思ってたよ・・・」


幸村君の視線の先にいるのは、雅治と私の友達だった彼女の姿。

2人は角度を変えながら、何度もキスをしていた。

けれど、雅治の視線は私に向けられたままだ。

雅治は幸村君の姿を捕えたのか、若干眉を潜めた。


「・・・バカだねぇ」

「誰が?」

「誰だと思う・・・"名前"?」


後ろから幸村君に抱きすくめられる。


「名前・・・」


耳元で囁かれ、幸村君の方へ振り返れば私の視界から雅治の姿が消える。


「・・・ん・・ふぅ・・・っ、"精市"」

「・・・んっ、名前」


精市の首に腕を回し、ねだるように舌を交わらせる。

雅治の突き刺す様な視界を感じながら、精市とのキスに溺れていく私。

なんて愚かで滑稽なんだろう。

いつまで私と雅治はこんな事を続けていくのか?


「名前、俺の事だけ考えて・・・」


キスの合間に精市から囁かれた言葉。

返事の変わりに、私から舌を絡めた。




(この中で一番哀れな人は誰でしょう?)



そんな問いも、数分後には

甘い甘い波によって浚われてしまった。





(お題:虫喰い様)

 20090514



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