左利き概論



 「見て見てせんせえ!」。
 耳障りな甘ったるい声が、作文にそれなりに真剣に取り組むテツシの耳に飛び込んできた。
 ……うるせえ。
「まりか、できたよ!それでね、ほら!見て!」
 先の丸くなった鉛筆をクルクルと回しながら、テツシはため息をついて、まりか(と、その取り巻き)と先生の様子を遠目に眺める。
 まりかは誇らしげに右手の小指から手首にかけての皮膚を先生に見せ、「ほら、まーっくろ!!」と言った。そのまりかの仕草を真似るように、取り巻きふたりも「わたしも!!」「見て見て、先生!!」と右手の側面を見せる。
「わあ、すごいねー!まりかちゃんもリカちゃんも加奈子ちゃんもがんばった証拠だよー」
 すごいすごい、とベッタベタに誉める先生と、心底うれしそうに笑い合う3人。
 ……あれ、あいつは?
 テツシはそばでひとり、うつむいている歩美を見て不思議に思った。



 かかとに「ひろせあゆみ」と書かれた上履きを靴箱にしまいながら、「なに?」と歩美は言う。
「…お前さ、ひょっとして左?」
突然の質問に、きょとんとした顔をする歩美。
「……あー、さっき、ほら、先生としゃべってたとき、」と付け足すと
「ああ!」と笑顔になった。
「うん、左利き」
 恥ずかしそうにうなずき、「わたしもがんばって書いたんだけどね」と言いながら外履きに足を入れる。
 テツシが「おれも左利きなんだ」と言うか言わないか悩んでいるところで、「あゆみー!」と例の甲高い嫌みな声がした。
 玄関を出たところで、3人が雁首揃えて「早くー!置いてっちゃうよー!」と手招きをしている。
「はーい!今行く!」
つま先をトントンとして、歩美は振り向き「テツシくん、また明日」と言うと、颯爽と走っていってしまった。
「あ、おい、ちょ、待てよ、」
 ようやく出た声は、歩美には届かなかった。その代わり、背後から「おう、どうした、テツシ」と、ちょうどやって来た隆夫がテツシの首に腕を回した。






瑞典まで九時間半のミルドゥッティル=Yさんより


【田井のコメント】

これは、テツシにっきのお話ですね! テツシ君可愛いっすねー
お題サイトをしていると、お題の使い方が上手くなるのでしょうか。Yさんの文章素敵!
ありがとうございました!



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