相乗り自転車ふたつの影 | ナノ




「乗ってけよ」


誰から借りてきたのか、真っ青な自転車に跨り、マサキはそう言った。ぶっきら棒な言葉に少々疑心を抱いたが、有難く乗らせて頂く事にした。何しろ私の足首は今、歩く度にずきずき痛み、歩行困難な状態にあるのだから。



風を切っているからといって涼しくないのはきっと蒸し暑い夏のせいだ。後ろに座って居るだけなのでまだましな方なのだろう、中学生女子の平均体重を一人分乗せて自転車を漕ぐマサキの背中は、汗をかいていた。


「重いな痩せろよ」
「うるさい」


悪態をつきながらも、マサキはどんどんスピードを上げ路を走っていく。何時の間にか日は暮れ、入れ替わり月が空へと現れる時間になっていた。街頭が、ぽつり、ぽつりと灯されていく。


「…いつ治るんだよ、その怪我」
「全治3週間だって」


レギュラーに昇格してから直ぐの怪我だった。バドミントンをしている私にとっては致命的な怪我だ。大会には間に合わないし、ペアを組んでいた先輩にも本当に迷惑を掛けた。思い出すだけで悔しさと情けなさが胸に込み上げ、思わず唇を強く噛んでしまった。滲み出た血液の味が口の中に広がり気持ちが悪い。

人通りの多い通りから路地裏へ入った瞬間、急ブレーキがかけられ、私はマサキの背中に思い切り抱き着く形となった。鼻をぶつけたので文句の一つでも言ってやろうとしたが、それはマサキの言葉によって遮られた。


「泣くなら、今だぞ」
「え、」
「帰ったらヒロトさん達が、心配する」


途端に目頭が熱くなった。マサキは何時だってそうだ。始めてお日さま園に来て寂しくて眠れない時もマサキが側にいてくれた。私が口にしない事も全部、分かってくれる。


「…マサキのくせに」
「はぁ?お前が泣きたそうな顔してたから、俺は、」
「泣くわけないでしょ、私が。いいから走りなさいよ」


ちょっぴり汗くさい背中に腕を回して顔を埋めると、マサキは再び走り出した。

ぽとぽとと流れ落ちる涙は、マサキの真っ白なシャツに滲み形を作りだしていく。何も言わなくなったマサキは、幼い頃よりずっと大きな背中と同じくらい、温かくて優しい。震える声を押し殺して、聞こえないようにありがとう、と呟いた。


「ほんっと、素直じゃないやつ」







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企画あいしていて様提出



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