通りすがる夏は、透明な | ナノ



心配症の彼は決して私を一人にはしなかった。私が遅くなった日は彼は必ず待っていたし、彼が遅くなる日は必ず私を待たせた。周りの友人に、面倒ではないか、とよく尋ねられるが、幼い頃からの習慣になっているので何とも感じなかった。それが私達の当たり前だった。


日が落ちるのが少し早くなり、いよいよ秋がやって来る時期になった。何時の間にか蝉は鳴く事を止め、入れ替わるように今度は蟋蟀が鳴き始める。その涼しげな鳴き声がさらに季節感を増した。


「涼しくなったなぁ」
「んー」


長く伸びたふたつの影から視線を移し、隣で歩く彼を見上げる。30センチ以上も差のある顔を見上げるのは一苦労だ。しかし、優しい彼は首を少し屈め、私と目を合わせながら会話をしてくれる。そのくすぐったい優しさも昔と変わらない。


「鉄平は、変わらないね」
「そうかな?」
「身体はすっごく大きくなったけど」
「そうだな」


陽だまりみたいに暖かく、干したてのふかふかのタオルみたいに柔らかい彼の笑顔が、私は昔から大好きだった。全てを包み込む大きな掌も、真っ直ぐと前を見据える眼差しも、何事にも立ち向かう心の強さも、全部、全部、変わらない。そんな素敵な彼を、これからもずっと近くで見守ることができれば、どれ程幸せだろうか。


「ねぇ、鉄平」
「ん?」
「これからも変わらず、隣に居させてね」


彼は一瞬、驚いたように眼を丸めたが、直ぐにいつもの笑顔を見せた。我ながら恥ずかしい事を口にしてしまい、顔の火照りが後からじわじわとやってきて、思わずこの場から逃げ出しそうになったが、それは彼の逞しい腕によって阻まれた。そして、彼から発せられた言葉は私の全身を震わせるのだった。





「勿論、ずっと、側に居てな」






title:あもれ


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