静寂をつらぬく | ナノ
雪村と私は、真っ白い雪の積もったグラウンドに立っていた。悴んだ手を暖めようと息を吐くが、直ぐに冷気へと変わる。北国の冬は厳しい。特に今日は例年よりも冷え込む予報だ。そんな日にも限らず、私達は立っていた。
「ゆきむらぁ」
「何だよ」
「寒い」
「じゃあ中入ってろよ」
雪村は視線を変えず、面倒臭そうに返事をした。反対側のゴールの、先の、ずっと先。真っ直ぐにある一点だけを見つめていた。何時も同じところから現れる筈の、もう三日も姿を見せない吹雪さんを待ち続けている。彼は本当に健気だ。そんな健気な雪村を置いて、マネージャーの私だけストーブの前でぬくぬくとしている訳にはいかない。否、本当の理由は別にあるのだが。
「来ないね、吹雪さん」
「…」
雪村の髪に真綿の様な雪が降り積もり、紺と白の見事なコントラストを生み出していた。そんなことにも気に掛けず、姿勢を崩さずにただ一向に待ち続ける所以は、本人に聞かなくても私には理解可能だ。
「…好きなのね、吹雪さんとサッカーが。私と同じね、」
「え?」
「んーなんでもない!」
初めて顔を上げた雪村は不思議そうな顔をしていた。その頬に柔らかなキスを一つ落とせば、雪村は表情をどう変えるだろうか。そうすれば、この一方通行の想いは少しは伝わるのだろうか。いや、雪村はこの気持ちを知らなくていい。雪村はただ、サッカーを愛していればいいのだ。それが今、彼の望むことなのだから。
「きっと来るよ、吹雪さん」
今出来るだけの精一杯の笑顔を見せると、雪村は少しだけ笑った。私には、これだけでいい、これだけでいいのだ。しつこく痛む心臓の奥に、静かに言い聞かせた。
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企画いたちごっこ様提出