沈黙の果てに | ナノ

屋上へ登ると、ひんやりとした風が頬を掠めた。この世界は足を止めず、次の季節へと進んでいる。そんな中で、彼女は、彼女だけはまるで時が止まっているようだった。始めて会った頃から彼女は変わっていない。美貌も、強さも、僕の扱いも。僕は背が伸び、体重も増え、実力もついたと言うのに、彼女にはまだ追いつけないままだ。そう、日々膨らむ、この想いも。


屋根の端に立つ彼女に近づくと、少し、強い風が吹いた。ミルクティ色の長い髪が靡き、シャンプーの香りが鼻を擽る。隣に立つと、その香りは強くなり、僕を惑わせた。あぁ、くらくらする。


黙ったままの彼女を見つめる。ふと、身体が震えているのに気がついた。寒いのだろう、鼻の先や頬が赤く染まっていた。それでも、何処かに向けているまっすぐな視線は逸らさない。何を考えているかわからない。それが、彼女だ。


(こうして僕は、近くにいても)
(彼女に気づいてはもらえない)
(無の、存在なのか)


唇を強く噛み締めると、血が滲み、口内に鉄の味が広がった。このままで終わらせていいのか。そう思うと同時に、硬く握った拳を広げ、彼女の冷えた手を強く、握りしめた。こんなにも細く小さいのか。


「…雪男」


彼女が口を開く、しかし、視線はけして逸らさなかった。


「ごめんね」


なんで謝るんですか、そう聞いてしまえば楽だったのだろうか。どちらにせよ、彼女は変わらない。これからも、ずっと。



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