おしまいの夜 | ナノ



深夜だというのに蒸し暑さが残る。これだから夏は嫌いだ。肌に纏わり付く生ぬるい空気から逃れようとベランダに出てみたが、少しも変わらない。苛立つ気分を鎮めようといつもの煙草に火をつけ、一服。この瞬間が私は好きだ。


「また煙草か、いいかげんやめろ」


不機嫌そのもの、というような声が後ろから聞こえ、隣に彼が立つ。片手には飲みかけのビールの缶。一気に飲み干し、私から煙草を奪い空っぽになった缶へと沈めた。虎なんだか龍なんだかよくわからない絵が書いてあるその缶を睨みつけると、隆也はため息をついた。


「そんな顔するなよ」
「人の楽しみ奪ってよく言えるね」
「お前のためにいってるんだ」


好い加減わかれよ、その言葉そっくりそのまま返したい。煙草を吸って体を悪くするよりか、苛々を溜めて体を悪くする方が、私にとってこれほど嫌なことはない。彼は一生わかってくれないだろう。


「長生きしてほしいんだ」


私は長生きなんてしたくない。さっさと死んで、もっと生まれのいい人間に生まれ変わりたいのだ。隆也は私のためを思っていってくれている。わかっている。わかっていても、隆也の優しさが、私は嫌いだ。隆也の好きな夏も、ビールも、野球も、全て嫌いだ。


「…隆也」


正反対の人間が、同じ時間を、場所を、世界を、共有することはできない。


「さよならしよう」


久しぶりに真っ直ぐにみつめた隆也の瞳には、大嫌いな私が写ってゆらゆら揺れていた。





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