おまえの指先 | ナノ



「私のせいだわ、」


その台詞は聞き飽きた。彼女は何だって全て自分のせいにしてしまう。今日は朝から激しい雨が降り、念願だった他県との練習試合が流れてしまった。私雨女なの、と前日に不安がる彼女を明日は晴れの予報だから大丈夫だ、と宥めた事を後悔したが、よく考えてみると気候を一人の人間に変えられる力は無いはずだし、雨女なんてただの迷信だ。少し考えれば気に病む事はないのに彼女は一日中落ち込んでいた。


「仕方ないだろ、もう気にするなよ」
「だって雪村楽しみにしてたのに」
「それは、まぁ、そうだけど」
「7月の文化祭も、この前の球技大会も雨降ったでしょう?あれ、全部私のせいよ」
「だから、どうしようもねぇって、」


好い加減にしろ、と喉まで出かかった言葉を思いっきり飲み込み、深く溜息をついた。前向きな考えができないのは仕方ない。出来上がってしまった性格はなかなか変えることができないのは分かっている。俺が文句を言いたいのは、そこではないのだ。


「ほんと私って、存在価値のない人間ね」


俺が気に食わないのはこの台詞である。いつも決まって自分の存在を否定し殻に閉じこもる彼女は本当に哀れだ。そして同時に、その彼女にうっかり好意を持ってしまい、彼女が自分自身を否定することで、彼女の存在を必要としている淡い恋心も一緒に否定される俺はもっと哀れだ。今日は雨特有のじめじめ湿った重い空気も手伝ってか、本当に心が折れそうになった。いつになったら全てに気がつくのか、俺は果たして報われるのか、考えただけで途方に暮れる。


「雪村?」
「…なんだよ」
「怖い顔ね」
「悪かったな」
「もしかしてそれも、私の、せい?」


彼女の声が耳を通り脳へ伝わったと同時に、俺は目頭が熱くなった。慌てて顔を反らせたが潤んだ瞳はなかなか乾かない。彼女のせい、というのもあながち間違えてはいないが、俺自身が彼女にそう思わせてしまったという事実が情けなかった。追い打ちをかけるように、彼女はごめんねと呟いた。またあのお決まりの台詞を続けるのだろう。頼むからそれ以上、


「自分を否定するなよ」


気付けば心の声を漏らしてしまっていた。やっと涙の引いた目で彼女を見つめると、案の定きょとんとした顔で、大きな瞳を更に大きくさせて俺を見つめ返した。速まる鼓動を落ち着かせて、ゆっくりと彼女の手を握る。指先が少し冷えた小さな手は、少し震えていた。


「そんなお前が、俺は好きだ」


もうどうにでもなれと、少々投げやりに自分の気持ちを伝えた。伝える予定ではなかったが、胸の蟠りが少しづつ消えていく様で案外スッキリした。窓辺から見える外の天候も、雨から曇りに変わり、雲間から太陽の光が漏れている。


「だから、存在価値がないなんて、言うなよ」


華奢な肩を引き寄せ抱き締めると、彼女は更に震えた。でも、とかだけど、とかまた否定をするんだろうなと思っていた俺は、腕の中から聞こえた彼女の一言に、今までの全てを救われるのだった。


「ありがとう」








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