オーロラの死 | ナノ





※成人設定 流血表現有






手を伸ばせばいつも届く距離にいた彼は私にとって都合のいい男だった。よくも悪くも彼はそれ以上でも以下でもない。風が吹けば髪が靡く様に、冷水に浸かれば身体が震える様に、私が彼を欲すれば彼は必ず応えてくれた。今だってそう、ついさっき別れた男のことを早く忘れようと彼にきつく抱いて欲しいと頼んだ。其れに応えるように彼は首筋へと噛み付いた。八重歯が私の柔らかな肉に喰い込み、濃い紅色の血液が乳房を伝って白いシーツへと染み込む。ぴり、とした痛みを感じたが、振られたことの悲しさか、こうする事しか出来ない自分への軽蔑か、胸の奥の痛みに比べたらまだ優しい方だった。その血液を丁寧に舐めとる様に彼は身体中に舌を這わし、そして歯型を次々と残す。その度に感じる痛みに何時しか快感を覚えた私は、熱い息を吐きながらあ、あ、とか細い声を出す。胸の頂を強く噛まれた時は流石に痛い、と言葉を吐いた。


「、わるい」
「ん、いいけど、」


きつく抱けと言ったのは私だ。しかし彼は私が本当に痛がる事はしなかった。やんわりと、傷が付かない程度に敏感な部分を噛み、舌でゆっくりと嬲る。しかし乳房を握る掌は強い。膣内を弄る右手は優しいが、太腿を掴む左手は爪を立てている。その強弱は私をもどかしくさせた。京介は忠実で、それでいて優し過ぎるのだ。


「きょ、すけ、もっと、ひどく、つよく、して」
「、いいのか?」
「もどかしくて、へんになりそ、っ」


それ以上に、心が痛みで潰されそうだった。悲しみ、悔しさ、自己嫌悪。痛みを忘れるほどのセックスを今の私は望んでいるのだ。熱の籠もった瞳で彼に訴えると、腰を思い切り掴み、彼自身へと引き寄せた。どうやら理解してくれたらしい。


「っあ、あ、はぁっ、あ、あ!」
「はぁっ、は、っくぅ」


ギシギシとベッドが軋む。京介から滴り落ちる汗が私の頬に落ち、まるで涙の様に流れていく。藻掻く両手は彼の右手により自由を奪われ、最奥を突かれる度に私の腰は震えた。既に理性を失った私は、心の痛みなど感じ取る余裕すらない程京介でいっぱいだ。そう、私はこれを望んでいたのだ。


「きょ、すけ、きょうすけ、っ」


彼の名前を大袈裟に呼び限界が近い事を知らせると、彼は私の両脚に手を掛けながら、唇にキスをした。今日初めてのキスだ。その柔らかな感触を求め、自由になった両手で彼の頬を包むと、今日彼と初めて視線が交わった。その眼差しは、


(苦しいのは、辛いのは、私のはずなのに)
(どうして、貴方がそんな顔をするの)


瞬間、更にも増して繰り返された律動に、全ての思考回路を奪われた私は、只々喘ぎ、酸素を求めるしかなかった。


怠い身体をベッドへと投げ出すように私達は眠りについた。ゆらゆらと揺れる微睡みの中、最後に見せた京介の表情が忘れられなかった。忘れるはずの心の痛みは、まだ存在したままだ。







title:ジューン


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