始まりは気付かぬままに | ナノ



(ふれたらおわりだよ、)
夏の気まぐれな夕立の中、大粒の雨水に濡らされた俺たちは、寂れた神社の本堂で雨宿りをしていた。防水加工のスポーツバッグからタオルを取り出し、濡れた身体や髪を大雑把に拭き、ずぶ濡れの彼女に差し出す。彼女は小さなハンドタオルで、漆黒の髪から流れる雫を一生懸命拭っていたが、それに気付くと申し訳なさそうにタオルを受け取り、身体を拭き始めた。濡れた制服から透けた下着が見える、なんて漫画では有りがちなシチュエーションだが、今時の高校生は制服の下に直接下着を着たりはしない。けれどその光景が、彼女の色香を一層際立たせた。白のブラウスと透けた黒のタンクトップのコントラストも、雨粒の光る白い太腿も、思春期の男児を欲情させるには十分すぎた。いや、それ以前に俺は、彼女に触れたかった。彼女の、頬に、首に、鎖骨に、胸の柔らかな膨らみに。許されるなら彼女の全てに触れたかったのだ。思いの儘に手を伸ばすと、彼女と視線が交わる。それはそれは、美しい瞳だった。



(そうつぶやいたあとでさらわれたくちびるに)
隣から伸びた腕は、少しの間躊躇ったがゆっくりと私の髪に触れた。緩々と撫ぜるその指は、毛先まで辿り着くと近くにある輪郭へと触れる。優しく頬を撫ぜ、ゆっくりと降下し、首筋に触れ、鎖骨に触れた。もどかしくてくすぐったくて身じろぐと、彼は熱い息を吐き出した。少し伏せられた瞳の奥はゆらゆらと揺れていて美しい。あべ、と呟くと鎖骨で止められていた中指がぴくりと動いた。そんな触れ方じゃ、我慢できないよ、そう伝えると彼は私を抱き締めた。熱くて熱くて堪らないその身体はとても色っぽく、欲情に負けて背中に爪を立てた。首元に顔を埋め、切なそうに息を吐くと、彼は私の唇に噛み付くようなキスをした。



(感慨深さなどいらない、しんぞうは全身をあやうげに鳴らす)
溜まった熱を逃さないように、俺は彼女を抱いた。脇腹に舌を這わすと彼女は鳴いた。繰り返す律動に彼女は堪らず泣いた。どくどくと波打つ心臓が苦しくて顔を顰めると、彼女は首に腕を回し、下唇を小鳥のように啄んだ。私も、一緒、苦しい、けど、きもちいいよ、と乱れた呼吸を整えながら言葉を並べた。すると彼も、そうだな、一緒だなと微かに笑う。そうしてまた、私の首筋に舌を這わせた。

苦しかった、友達という名で縛られた関係が。けれどその名を解く勇気はなかった。それは同時に終わりを意味するのだ。しかし私達は気付いてしまった。終わりと始まりは常に表裏一体である事を。そして、



(心が鳴ったら終わりだよ)



私達はすでに、お互いの心を鳴らした後だという事を。






quotation:あもれ






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -