リブラの天秤がくだす終焉 | ナノ


人生は選択の連続だ。その判断が正しいかどうかなんて、選ぶ時にはわからない。それでも人間は、選択をしていかなければならない。今まさに私という一人の人間が、選択を迫られているのだ。


「いちご味か抹茶味か…」
「早く決めろよ」
「あ痛!」


榛名はよく私を小突く。痛くない程度に力加減をしてくれているのだが、今のは痛かった。携帯の角は尖ってなくても流石に痛い。じとっとした目で患部を摩りながら榛名を見つめると、何か文句でも、と言いたそうに睨みつけられたので慌てて視線を商品に戻した。これだから短気は。


「ねぇ榛名どっち?」
「どっちでもいいだろ」
「よくないよーこれ冬期限定だよ?258円もするんだよ?いちごチョコと抹茶チョコとか究極の選択だよ?あ、ミルクチョコもあるのか!ますます迷っちゃあ痛!」


また小突かれた。しかもわざわざご丁寧に同じ場所に携帯を振り下ろした。わざとだ、確信犯だと責め立てると、榛名は面倒臭そうに溜息をつき、いちご味と抹茶味のチョコレートを掴んでレジへと向かった。


「え?買ってくれるの?二つとも?」
「馬鹿言え、後で一つ分の金は寄越せよ」
「なんだー」


それでも一つは奢ってくれるのだ。榛名は短気で手が早いけど、何だかんだで待ってくれるし手加減もしてくれる、それ以上に優しい男子なのだ。心臓辺りがなんだかくすぐったくて、思わず笑みが零れた。


コンビニから外へ出ると、冷たい外気がスカートの中を通り、身体が無意識に震えた。もうすっかり冬だ。隣の榛名は首に巻いたグレーのマフラーに顔を埋めていた。吐き出す息が白くて綺麗だ。


「ねー榛名」
「おー」
「榛名も迷うことあるの?」
「そりゃあるよ」


何でも決めるのは早い方な榛名だが、迷う事もあるのか、そりゃ彼も人間だもんな、と一人で納得していると、また榛名は私を小突いた。今度は肩辺りに柔らかいパンチを一発。


「何考えてるんだよ」
「榛名も人間なんだなって」
「人間以外の何物なんだよ、俺は」
「サイボーグ榛名」
「っぷは、だっせぇな」


くくく、と笑う榛名は可愛いと思う。身長も180以上あるし、身体も大きいし可愛いという言葉とはかけ離れているかもしれない。しかし笑顔は無邪気で純真無垢な子供みたいに可愛いのだ。少し見惚れていると、榛名は何か思い付いたようにあ、と声を漏らした。


「でも、お前は迷わないよ」
「え?」
「だから、なんつーか、そもそも天秤に乗せないっつーか、上手く言えないけどな、」
「うん」
「何が他の選択肢だろーが、俺は絶対、お前を選ぶよ」


唐突な言葉に呆気にとられるしかなかったが、じわじわと頬が熱を持つのを感じた。榛名は何一つ表情を変えずに歩いている。榛名元希という男子は、短気で手が早いが優しくて、加えて何でも言葉にする男子なのだ。例えそれが赤面してしまう言葉だろうがなんだろうが、平気に口に出す。


「はぁるなぁー」
「なんだよ」
「ばかあほ大好き!」
「ばかあほいらねぇだろ!」


恥ずかしい言葉を無理矢理吐き出して、私は走りだした。優柔不断で照れ屋で素直じゃなくて、でも榛名が大好きな女子の精一杯の愛情表現だ。榛名はそれを、両手を広げて受け止めてくれるだろうか。榛名が私を追い掛けて抱き締めるまで、あと数秒だ。










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企画花瞼様に提出

素敵な企画に参加させていただき
ありがとうございました。


20121029 にも


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