小説1―2
2022/10/31 17:09
男の首目掛け、鎌が横に。
男は――。
目をかたくつぶった。
――まただ……。
また来る。
何度続くんだこの“現象”は、と。
分かりやすく言えば、男は死ねなかった。
狂気に満ちた紅の瞳に、ただ、ただ震えているしかなかった。
今度は胴だ。
しかし、死ねない――。
そのガタイのいい体格と、腕っぷしの強さが自慢の大の男が。
今、子供のように泣きじゃくっている。
いっそのこと殺してしまえ。
そう思った。だが、目の前にいる紅の“女”は、死なせてはくれない。
関わるべきではなかった。
男は――。
口から泡を吹いて力尽き、意識を失った。
しかし、紅の女は近くのテーブルにあったグラスを持ち、氷もろとも男の顔目掛けぶちまけた。
それでも男は目覚めず、またグラスを手に持つ。
同じようにぶちまけると、男は目を覚ました。
恐怖に震え、青ざめた顔で。
紅の女は、今度はナイフを持っている。
仰向けに倒れた男にまたがり、心臓付近にナイフを突き刺す。
紅の女の口元に笑みが浮かぶ。
男は意識を失いかけたが恐怖の連鎖が再び始まるだけだった。
その時だった。
薄暗い照明のバーのもと、静かに外へ通じる扉が開かれた。
現れたのは身なりの調った、慈悲の見出だせない鋭い目付きの巨漢の男だった。
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