○本編ラスト
2014/03/21 00:30

自分達と鏡を挟んで反対側の存在である二人の後ろ姿を横目で見送ると、轟音を立てて、建物が崩壊し始める。
そんな騒音の中なのに、どうしてか、呟きのような互いの声だけははっきりとその耳に届いた。

「さよならね。…貴方のこと、案外嫌いじゃなかったわ」
「はッ…最後まで素直じゃねーやつだな」
「喋らないで。傷が広がる…」
「変わんねーよ、どうせもうすぐ死ぬんだ」

投げた言葉に感情はなくても、少年の頭を膝に乗せ、介抱の形をとっていた少女が言葉に詰まる。
赤い正装に滲む血の色は、同じ赤のはずなのにやけに黒く見え、逃れられない宿命を映しているように思えた。

「なあ」
「なに」
「次の世界ではさ、幸せになれよ」
「……っ」

無表情を貫き通していたはずの少女の顔が目に見えて歪む。両手の拳を強く握り、下唇を噛んでその表情を伏せると、
こらえるように、絞り出すようにして少女から言葉が零れた。

「…貴方がいないと、意味がないのよ…馬鹿…!!」
「…はは、泣き顔もかわいいじゃん。」

それまで通りからかいを含んだ口調で笑い、少年は少女の頬に手を伸ばす。
少女が唇を噛み締めながら流す涙を優しく拭うと、少年は息の多く混じる掠れた声で告げた。

「じゃあさ」

翡翠の瞳が、今だ涙を零す真紅を捕らえる。

「先に待ってるから。」

それまでの歪なものとは違う笑顔を少女に残して、少年は翡翠を伏せた。
少女が自身の頬から離れた少年の手のひらに自らの手を伸ばした瞬間、全てが音を立てて崩れ落ちた。


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