好きと嫌いと愛してる

※PoHとキリトが付き合い始めて日が浅い頃の話。
まだラフコフ入りはしてない。

+++



「────なんの真似だ」

そう声をあげた俺は、目の前にいるPoHを睨みつけた。

「何が問題だ?オレに付いてくると決めたのはオマエだぜ」

俺が睨んだことすら楽しそうに笑うこの男を見て、謀られた、と俺は舌打ちをした。

「これからしばらくここがオレとオマエの愛の巣だ。逃げんなよ」
「愛の巣……ねぇ。鎖で縛り付けておいて、良く言う」

 ガチャリ、と腕を動かせば、そこには先ほど目の前の男によって取り付けられた手錠がある。
殺すつもりならば麻痺毒なり眠り薬なりなんなりあったはずだが、わざわざこんなものを使うあたり性格の悪さが滲み出ている。

「殺すつもりはねえよ。わかってンだろ」
「おもちゃにはされたくないんだけど」
「すぐ貴様からおねだりするようになるさ」

 こいつの犬にも猫にもなるつもりはない。
この男はオレの心の弱さに付け込んで利用しようとしているだけだ。
けれどそれでも、現在の攻略組に戻ると言う選択肢は浮かばなかった。

「……なんで手錠だよ」
「逃げられても困るからな」
「逃げるつもりはない」

 むすっとして眼を細めると、PoHはそんな俺を愛おしそうにベッドに寝かせ、覆いかぶさった。
すり、と首筋に頭を擦り付けられる。ポンチョのフードをかぶっていないPoHの髪がぱさりと垂れて、俺はついくすぐったさに身をよじってしまう。

「ん」
「お、笑ったな。その顔可愛いぜ」
「……口説き文句か、それ」
「思ったままを伝えたんだが……照れてんのか」

 こいつの愛の言葉には本当に慣れない。
ここまで愛されたことなど数える程あったかどうかであるし、ストルゲーやアガペーを感じたことはあれど、エロスを向けられた事などそれこそこいつを除いてごく少数だ。

「愛している」

 それだけを俺に擦り込むようにささやき、口付けをする。
それを受け入れながら、俺は甘ったるい感覚に身体を支配されていくのだ。
愛ゆえに俺を殺そうと考えていたこの男が、俺の身体も心も支配すると宣言してから早三日である。
 この宿屋は俺の知らない町の酒場の一室だ。
PoHは現在はカーソルがオレンジになっておらず、こうして圏内にも入ることができる。
そもそもがこいつのやり口は自分が手を汚すものではない方法が多いため、犯罪教唆によってPKを増やしているのだろう。ろくなものではない。
カリスマ性と美貌と話術を悪用するとこうなると言う見本のような男だ。
それに捕まってしまった俺も、もう手遅れなのだろうが。
ゆっくりと唇を離すと、PoHは先ほどのように顔を首に擦り付けた。

「猫みたいだ」

 俺がそういえば、首を傾げて俺を見つめてくる。
こうした仕草ひとつとっても色気がすごいのだから、イケメンは得だと思う。

「……セックス、する?」

俺からそう言えば、PoHは目を見開いた。

「随分折れるのが早いな」
「おもちゃにはならないけど、恋人になった暁にはちょっとぐらいそういうことしたいと思うだろ?それともPoH、俺といるだけで満足か?」

俺はつま先でツツ、とPoHの股の間を撫で上げる。
それを笑っていたPoHは、俺にその端整な顔を近づけて問いかけた。

「少し前までキスすら恥ずかしがってたくせに、いきなりどうした」
「経験値は全然足りないけど、男がどうすれば欲情するかぐらい、少しはわかる」
「精一杯の背伸びにしちゃ、ちょっとやりすぎだな」

 むぐ、と唇で口を塞がれる。
15歳の俺にとって大人の男との付き合いなど数える程しかなくて、しかも恋愛経験なんて男女問わず皆無であるキリトにとって、PoHとの付き合いは何もかもがわからないことの連続だった。
コミュ障を自覚している俺が、大人の男に抱かれると言う事実だけでも受け止めるのに半日はかかったのだ。
それに、相手はPoHだ。
ただの大人の男ではないことぐらい、俺が一番よく知っている。
そんな初めて尽くしのただの子供が、初めての恋人に手を離されないよう多少背伸びをするぐらい、許してほしいと思うのだ。

「ん、ふ、んぅ」

ちゅ、ちゅぷ、ちゅ、と音を立てながら、唾液を飲み干せと言うかのように口をこじ開けられ、舌で蹂躙される。
鼻に抜けるような甘ったるい喘ぎ声が漏れ出し、俺はこらえきれず足を伸ばした。

「キリト、そんなに犯してほしいのかよ」
「……だって、どうやったらお前が喜ぶのかなんて知らない」
「だからってヤるだけが全てじゃねえよ。サルとは違うんだからな」
「いつも俺に触れたり恥ずかしいことしてくるから、そう言うことが好きなのかと思った」

俺が素直にそう告げれば、PoHは喉を鳴らした。

「嫌いとは言わねえがな。オマエが可愛いから、つい手を出したくなるんだよ。あとはウブな反応が新鮮で可愛いし、俺に噛み付いてくるところも可愛いし、弱ってる姿を俺にしか見せられないと思ってるところも可愛いな」
「可愛いしか言ってないけど」
「可愛いんだから仕方ねえだろ。オマエの全てが愛おしくて可愛いんだよ」

 当然のことを当然のように言っているかのようなPoHに、俺は思わず顔が赤くなるのを感じだ。
それを見たPoHが俺を抱きしめるので、完全敗北した気分だ。
PoHに敵う日など来るのだろうか。

「と言うか、PoHってこんなやつだったんだな」
「あ?」
「口説き文句というか殺し文句っていうか……ストレートに言うタイプなんだなって」

俺が顔を赤らめて感想を漏らせば、可笑しそうに笑いながら耳元に唇を寄せて囁いた。

「オマエにだけだよ」
「そう言うとこ」
「本当のことだって言ったろ?キリト以外全員不合格だったんだよ」
「なんの試験だよ」

そう問いかければ、PoHは「オレの希望にふさわしいかの試験だよ」と返した。

「俺は合格なんだ?」
「合格どころか」

 そう区切ると、PoHはねっとりとした抑えきれない熱量を込めた瞳を向けた。
思わずゾクゾクと身体を震わせると、どろりとした瞳のまま俺を食べるかのように口づけした。唾液を溢れさせて息ができなくなるほどに口付けを交わして、俺の手錠のついた手のひらを自分のものと重ねる。

「んっ、ふ、っぁ……」

 甘やかされている、と感じた。
別にその気が無くても、俺のことをPoHなりに気遣っているのだろうとは思う。
殴ったり蹴ったり切ったり、痛いことをしないのがその証拠だ。
それは当たり前のことだと言いたいが、ことこいつに至ってはそれすら危うい。
なにせ俺を愛しているがゆえに殺したいと考えている性的倒錯者だ。
まともな思考回路を期待してはいけない。
しかしそれでも、俺を恋愛の対象にする程度には愛してくれているのだろうとおもう。
殺したいほど愛してる、なんて、実際にその対象になった俺からすれば迷惑もいいところなのだが。

「キリト、キリト、愛してる」

 俺の名前を呼んで、俺にすり寄って。俺のためなら世界すら殺すと言い切ったこの男を、俺はどうしても振り払えなかった。
弱っていたのだと言う言い訳も、もう自分の中では通用しなくなっている。
ほだされたのか、こいつの話術に乗せられたのか。それともそのどちらでもない感情で、俺がこいつの腕に収まることになったのか。
それはわからないけれど、でも一つだけ言えることがある。

「お前の事は嫌いだけど。でも、愛してくれている事は知っているから。そこだけは嬉しいよ」

 サイコキラーなど大嫌いだ。
けれど、俺だって人を殺してしまっている。
それを指摘されてしまえば、何が違うのだと言われてしまえば、きっと言い返すことなどできはしないのだ。
そんな暗く澱んだ考えに基づいた言葉に、PoHは全てを理解しているように微笑むと、俺にこう囁いた。

「ならよ、ブラッキー。オレがオマエに愛を込めた言葉を囁くのと同じぐらいに、オマエも俺を好きだと言ってくれよ」
「どうして」
「勘違いしてくれるかもしれねえだろう?」
「お前のことが本当に好きだって?」

その通りだと言うように、PoHは手錠の鍵を開けた。
数時間しか経っていないがやたら重く感じた鎖の感覚が抜けて、手首が幾分か軽くなる。

「お前を心から愛してしまったら、それはお前の望む俺じゃない気がする」
「そりゃわからねえだろ。オレはどんなキリトでも愛おしい。だからこうして弱ってるオマエを抱きしめて、甘やかして、オレに依存させようと頑張ってるんじゃねェか」

手首をさすりながら、PoHの言葉を聞いていたキリトはため息を吐いた。

「まぁ、恋人だからな。でも、お前はあんまり好きって言わないね」
「愛してるからな」
「そこらへんの基準がよくわからないんだけど……まぁいいや」

俺はPoHの首に腕を回すと、ぐいっと引っ張る。

「好きだよ、PoH」
「愛してるぜ、キリト。願うなら、オレに堕ちて、オレだけを求めてくれ」

そうして自分から触れた唇に、俺とPoHは満足して、そのまま甘い時間を過ごすのだった。



きと嫌いと愛してる


END!
────────────
 お久しぶりです!
更新が約1ヶ月前!なんたること!
そうこうしているうちにバレンタインですわ!
 番外編を書こうとしたはいいものの、まだ本編は続いてるわ芸能界パロの下書きは溜まっていくわ、リクエストの消化がやばたにえんだわで酢酸は大パニックです。
申し訳ありません。

PoHはキリト君のことを愛していますが、キリト君はPoHを愛しているわけでも好きなわけでもありません。どちらかと言うと嫌いな部類です。嫌いというか怖い感じ。
でも色々ほだされちゃって、ついでに言うとPoHには弱いところ全部見られてしまったから今さら隠す必要もないか、と考えているキリト君。
エッチなことばっかりしてくるのでこいつ怖……と思っているといい。
まだ恋愛に臆病&よくわかっていないキリト君。
これからPoH色に染められてしまうが、果たして。

そんな感じです!
本編でまだ明かしていないところをほんのり香らせる程度の番外編です!
本編進めたいけど終わらない!
アニメが佳境!キリト君は可愛い!

以上、ありがとうございました!

更新日:2019/02/11

[ 26/57 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -