絶望

※UWでキリトくんがもしもロニエちゃんたちと合流する前にヴァサゴに奪われてしまったらif


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 起き上がりたくない。
もういやだ。
このまま、眠ってしまいたい。
そう思うのに、こいつはそれを許してくれない。
俺を抱き上げて、俺をまた戦場に、舞台に立たせようとするのだ。

「キリト。可愛いキリト。オレのキリト」

囁く声は甘くて、熱い。
ドロドロとしていて、苦しいぐらいだ。

「早く起きてオレと戦ってくれよ。
オマエが起きなきゃ、みんな死んじまうぞ?」

そう言って俺を揺さぶるのだ。
その声が嬉しそうで、楽しそうで、でも懇願にも似ていて、ぼうとする頭で俺はその声を聞いていた。

「なぁ、キリト」

 何度呼びかけても足りないほどに呼びかける。
俺はお前の望むような男ではないと言ったはずなのに。
しかしそれは男にとってはどうでもいいのだろう。
この男は俺以上に俺を理解しているらしい。大した自信だ。


「なぁ、キリト。
早く、オマエをオレに味わわせてくれ」


 とろけそうな程甘ったるい声で、けれどその声の中には殺意が渦巻いていて、これが戦場でなければ勘違いしてしまいそうなほどの響きをもっていた。
周りでは大声が飛び交っている。
戦場だから、怖い音もたくさんする。
俺だけに向けられたこの視線がなんなのか、わからない。
 この男は俺が起き上がれば、この騒ぎを止めるのだろうか。
答えは否だろう。
この男は俺が起き上がれば、このままずっと戦いを続けながら、俺と殺しあうつもりだろう。
けれど、俺が起きなくとも、俺を起こすためだけに何百、何千の命を奪うつもりなのだ。
どちらにしろ、命を奪おうとしているのだ。
であれば、遅いか早いかの違いでしかない。
俺が起き上がるのが早ければ、きっとこの男は俺の方へ意識を向けるだろう。
そのためだけにこの戦場を用意したというのだから、驚きだ。
本当に、どうしたらいいのだろう。
起きあがりたくとも起き上がれないのだから、この男の望みに答えられない。
あぁ、もう。


 抱き上げていたキリトが、虚ろな瞳をしながらも俺の服を握ったことに驚いて、思わず手を離してしまいそうだった。


「キリト……?」


キリトの瞳にまだ光は戻らない。
だが、反応をしたことに、ヴァサゴは驚いた。

「キリト、起きたのか?」

瞳に光の戻らないキリトに問いかける。
しかし返事はなく、それでもヴァサゴはわずかに手応えを感じてキリトにもう一度声をかけた。

「……キリト、起きてくれ。
オマエが起きてくれねぇと、オレが困る」

 自分が甘い声を上げている自覚はあった。
キリトを前にすると、こうなってしまう。
誰にも邪魔されないところに行きたい。
流れ弾でキリトが死んだら元も子もないからだ。
キリトを殺すのはオレだ。オレでなくてはならない。
 歩く最中に、キリトに自身の計画を語った。
日本人だけではない、中韓の連中も争わせ、そして人口フラクトライト全てを殺しつくすところまで。

「そこまですりゃあ、オマエも目がさめるだろ?オレの信じた《黒の剣士》なら、な」

そう言って、キリトに微笑みかけると、ぐいっ!と強い力で首元が引っ張られた。

「ウオッ!?」

またも反応したキリトに、今度は驚きからではなく衝撃で手を離しそうになる。
しかし、それをなんとか耐えると、驚愕に満ちたヴァサゴの表情は、歓喜に彩られる。


「……ふざ、けるな。
そんなこと、させてたまるか」


と。
そう声をあげた男は、変わらず片腕もなく軽かったが、しかし、待ち望んでやまない存在だった。


「あぁ、キリト…………!」


どろりと。
先ほどの比ではない砂糖を煮詰めたような、甘ったるい声を聞いたキリトは、ヴァサゴを引き寄せて囁いた。

「みんなを殺すなんてさせない。絶対、お前を止めてやるからな」

 キリトのその言葉に、ヴァサゴはうっとりと恍惚とした表情を向けた。
まるで愛の告白を聞いたかのような表情をして、抱き上げた腕に力を込める。

「あぁ、そうしてくれ」

どこまでも嬉しそうで幸せそうなヴァサゴに、キリトは苦しげに顔を歪ませた。















 キリトがいくら望んでも、やせ細った身体も、なくなった片腕も、青薔薇の剣も、何もかも元に戻ることはなかった。




END!
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途中で目が覚めたらif。
絶対アスナちゃんたちいなかったらキリトくん拉致するでしょヴァサゴ、とか考えてしまい……。

途中で目が覚めたら不完全な状態で覚醒してくれると嬉しいです。
ユージオがいないとどうにもできないキリトくん萌え。



更新日:2018/07/24

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