好敵手

※御都合主義でヒースクリフとユニークスキルありで勝負した後の時系列です。
アスナちゃんとの恋愛関係はここではないです。


────────────




 好敵手と書いてライバルと読む。

そんな関係性の奴が俺にいるとしたら、それは目の前のこの男だろう、と俺はそう思っていた。
しかし、どうやら認識を改める必要がありそうだ。

KoBの衣服を身にまとった俺は、ヒースクリフを目の前にして、そう考えていた。

「なぁ」
「なんだね?」
「アンタ、ライバルとかいる?」

 不躾な質問に、ヒースクリフは目を瞬かせ、そして考え込んだ。
どうやら俺と同じ結論に達したようだと、目の前の男の様子を見て思う。
 ヒースクリフは強い。
そりゃあもう、滅法強い。
SAO最強と言ってもいい。
俺も最強だなんだと言われているが、つい先日負けたばかりだ。
ユニークスキルありでも負けたとなれば、いよいよもって勝機はない。
しかし、彼に匹敵するプレイヤーは何も俺だけではないだろう。
俺がたまたまユニークスキルを授かっただけで、まだ見ぬプレイヤーだっているかもしれない。
 例えば、今この部屋にはいないが、このKoBの副団長であるアスナ。
彼女だって、俺と同じレベルで強い。
ヒースクリフに敵うかと言われれば微妙ではある。しかしそんなことは言わない。
彼女に失礼だからだ。だが、彼女に聞いても、同じ答えが返ってくるだろう。
 そんな男に、明確なライバルがいたと言う話はついぞ聞かない。
もちろん俺が聞いていないと言うだけで、聞いたことのある奴がいるかもしれないが、いればもっと話題になってもいいはずだ。

「いない、と言ってしまうと君に失礼かな」

 ヒースクリフは、しばらく考え込んでいた意識をこちらに戻すとそう言った。
そして、その表情は柔らかい。が、俺からすると薄気味悪く感じられた。
なぜなら、ヒースクリフの真鍮色の瞳が俺をまっすぐに捉え、俺の中を覗き込もうとしていたからだ。
比喩ではない。
本当に、俺と言う存在を見極めようとするその瞳に、俺は思わず身体を硬くする。
だが、答えないと言うわけにもいかないので、俺は苦笑して返した。

「こないだ負けたばっかりの俺が、アンタのライバルなんて言ったら、それこそアンタに失礼なんじゃないか」

 俺がそう言うと、ヒースクリフは自嘲気味に、ふ、と笑って見せた。
おやっ?と俺がその表情に目を瞬かせると、ヒースクリフはゆっくりと立ち上がった。
そして、俺が座っていた団長室のソファの前までくると、向かい側に腰を下ろした。

「私に勝てるのは、君しかいない。少なくとも、私はそう考えている」

存外真剣に語られたそれに、俺は呆れたように返した。

「そりゃ、買いかぶりすぎだろ。確かにユニークスキルをもってるって"バレてる"のは俺とアンタだけだけど、他のやつだって手に入れるかもしれないし、なんならアンタがいま育ててる団員だっていつか手にするかもしれないだろ」
「私は何も、ユニークスキルの有無だけで言っているのではないよ」

 ヒースクリフは、俺のことを見つめながらそう言った。
ユニークスキルだけで判断していないとするならば、レベルだろうか。
しかし、なんだかそうではない気もする。

「何を根拠に、そう言ってるんだ?」
「私が見てきた君の全てが根拠だよ」
「……へえ」

ヒースクリフのその言葉は俺にはあまりぴんとこなくて、それだけしか返せなかったが、なぜだかやはり居心地は悪かった。
この白色と赤色の服が原因かもしれない。
あぁ、黒い服が懐かしい。

「そう言う君にはいるのか?ライバルが」

今度は逆にヒースクリフから問われ、俺も言葉に詰まった。

「ライバル……そういえば、いたことないな。アスナが近いんじゃないか。実力的に」
「よくデュエルしているからな」
「ラストアタックでも揉める。でもだいたい俺が勝つ」
「ふふ。君のそう言うところは嫌いではない」
「そりゃどーも。あぁ、ラストアタックでも思ったけど、他のギルドの奴らはどうなんだよ?攻略組にはアンタのお眼鏡に適うやつもいるんじゃないか」

俺がそう言うと、ヒースクリフは首を横に振った。

「では逆に問うが、彼らの誰かが一対一で私と戦った時に、私が負ける姿が想像できるかね?」
「……自信満々だな。ま、無理だろ。正直、いい線行くかな、ぐらいだ。俺以上のレベルのやつもいないし」

なんとも残酷な話ではあるが、これが事実なのだ。
ヒースクリフはそれだけ別格という話であった。

「君だけなんだよ、私がライバルと呼べそうなのは」
「でもライバルって感じじゃないしなぁ」

俺はヒースクリフを見て思う。
俺が感じた答えが正しいかどうかはわからない。
しかし。

「一つ、言わせてもらうなら」

俺は続ける。
この男の反応が見たかった。

「アンタが俺に倒されるところも想像できないんだけど、どうしてだろうな」

 その言葉を聞いた瞬間────その真鍮色の瞳が、弧を描いた。
ゾッと、身体中の産毛が逆立つような感覚がする。
バーチャル世界でのありえない感覚に、思わず腰を浮かせ、剣の柄に手をかけた。
しかし、それだけだ。
それ以上は、良くも悪くも、何も起こらなかった。

「……そう怖がらなくてもいい」

 ヒースクリフは弧を描いていた瞳を伏せ、俺を落ち着かせる。
ドッドッ、と心臓が音を立てていた。

「どうしてそう思ったのか、聞いてもいいかな」

ヒースクリフが話を続けたので、俺も続ける。

「……言わないよ。いや、いえない、かな。感覚的なものだし」

嘘だ。
しかし、ここで本当のことをいうつもりもない。
ヒースクリフを疑っていることを俺が話せば、この男は俺を警戒し、そして俺の行動を制限するだろう。
幸い俺の演技を表面上は信じることにしたようで、ヒースクリフは「そうか」と答えて、その場は終わった。

「そろそろお暇しようかな」

 俺がそういって立ち上がると、ヒースクリフも立ち上がった。
見送りでもしてくれるのか、と言いかけて、止まる。

──────一瞬の合間に、俺の眼前に、ヒースクリフの姿があった。

固まっている俺からゆっくりと顔を離すヒースクリフに、何も返すことができない。

「見えたかな?」

その一言で、我に帰る。
何を、された。
この男に、今。

「好敵手、という言い方があるね。
あれは好ましい敵と書く。君がそうであってほしいと、私は望んでいるよ」

ヒースクリフは笑っていた。
楽しそうに、そして心なしか、愛おしそうに。
俺はその言葉に、頭の中で必要なピースがはまっていくのを感じていた。
そして、確信する。

あのとき。
あの闘技場でのコイツの動きは、早過ぎた、、、、

「……わざとか?」

俺の目の前まで一瞬で迫ったのは、この情報をよこそうとしたように思えてならない。
そういった意味での質問を、ヒースクリフは正しく理解した上で返した。

「さて、どうかな。少なくとも……君に期待をしているのは、間違いない」

そう言ったヒースクリフの顔は、いつも以上に輝いていたように見えた。
だから、俺は返す。

「アンタが俺に何期待してるかは知らないけど……その期待に応えられるための、努力はするよ。
少なくとも、アンタに負けちゃった分は、必ずな」

俺はいつもの笑みを顔に貼り付けてそう言った。
虚勢でもいい。
この男に今必要なのは、服従する俺ではない。
対等に、そう、それこそライバルと呼べるような俺であるはずだ。
だからこそ、満足そうに頷いたこの男に、俺は安心したのだ。




敵手



この白い服を、早く黒に戻さなくては。
俺が漠然と思ったのは、そんなことだった。




END!
────────────
好敵手ではなくラスボスなので、お互いに線引きはしっかりできてそう。
拍手に1年ぐらい置いてました。
なかなか更新できず申し訳ないです。

更新日:2020.08.29

[ 56/57 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -