胸の内の覚悟

――――――剣を構えていた。

敵を屠ることのできる射程圏内に彼はいた。
彼は私の恋人であり、そして同時に頼もしい仲間でもある。
 人は彼を英雄といった。
なるほど、確かに英雄というのにふさわしい。
かのデスゲーム、SAOをクリアした英雄という意味でならば、きっと多くの人にそう呼ばれているのだろう。
 では、果たして私はどうなのだろう。
彼に釣り合っているのだろうか、と、たまに考える。
好きだという気持ちは誰にも負けるつもりはないし、彼にもとてもよく愛されていると思う。
彼との間の子供という意味では、ユイという愛娘だっているのだ。
そんな私だって、彼のあまりに人気ぶりには肝が冷える。
あぁほら、今だって。

「キリト!打ち込め!」
「任せろ!」

メインアタッカーである彼は、私を待つことなく走り抜けて、敵に何度もダメージを与えている。
彼の背中は、なんと美しく、そして頼りになるのだろう。
そう思っているのは、何も私だけではない。
リーファ、リズベット、シリカ、シノン、エギル、クライン。
いつものメンバーたちと空を駆ける彼はあまりに眩しく、綺麗なものだから、ちょっとだけ、不安になってしまうのだ。
その横顔も、必死な表情も、勇ましい顔も、全て愛しいものだけれど、それでも、こうしてここから見ている景色だけではまだまだ足りない。
もっと、もっと見たい。
彼の輝きを、近くで。
もっともっと近くで、みたい。

気がつくと、私は治癒詠唱を終えた瞬間、手にレイピアを握っていた。

敵が吠える。
私はそこまで、一気に駆け抜けた。
《閃光》と呼ばれていた頃のように、速く、疾く。
彼が驚いた顔をして、こちらを振り向いたのがわかった。
そして、一気に表情が不敵な笑顔に変わったことも、見ることができた。

「――――――行くぞ、アスナ!」
「うん!」

剣が交差する。
美しい軌跡を描きながら、敵の咆哮とともに、敵の体が全て私たちの剣によって引き裂かれて行く。
背後で爆散して、敵が散っていった音が聞こえる。
私はレイピアを鞘に収めると、フゥと息を吐いた。

「アスナ」

ポンと肩を叩かれてそちらを向く。
「いいタイミングだった。ありがとう」
彼が嬉しそうにそういうので、私も微笑んだ。
「どういたしまして」
「でも、今日は打ち合わせもなしだったけど、よく合わせられたな」
当然だ。いつも後ろから、いつ合わせられるか、タイミングを図っているのだから。
それを知られたら、恥ずかしいから言わないけれど。
「君の隣に立つのだって、苦労するんだよ?」
私がそういうと、彼はニカッと笑った。
「俺の隣は、いつだってアスナがいてくれてるさ」
そういってかっこいいことを言う恋人に、私は頬を赤く染めた。
そんな風にしていると、外野が騒がしくなる。
「おーおーお熱いこって」
「なんだクライン、嫉妬か?」
「見せつけてんじゃねーぞこの!」
グリグリと頭を拳でやられている恋人に、思わず笑いがこみ上げた。
「アスナちゃんよぅ、こいつのどこがいいんだ?」
「少なくともクラインより顔はいいわよ」
「りっリズ!?そりゃねぇぜ……所詮この世は顔なのかよ?」
悲壮な表情を浮かべたクラインを慰めるように、シリカが割って入る。
「エギルさんは美人な奥さんいらっしゃいますから」
それを聞いたクラインが、ぐりんっとエギルの方を向いた。
「エギル頼む!俺に美女紹介してくれ!」
「そう言うとこがダメなのよ」
「全くだな」
シノンとエギルに追い打ちをかけられて、クラインが「そんなぁ〜!」と叫ぶ。
「だっ、大丈夫ですよ!クラインさんにもいいところあります!」
「マジでリーファちゃん!?例えば!?」
「…………」
「リーファちゃん!?」
言い淀んだリーファにクラインが泣いた。
「まぁまぁクライン。俺は好きだぜ、お前の野武士面」
「キリの字それ褒めてるよな?」
「褒めてる褒めてる」
そういってクラインを慰める彼に、またみんなが笑った。

――――――あぁ、やっぱり、敵は多い。

私以上に魅力的な女の子も、男の人だっているけれど。
それでも、私は、負けるわけにはいかないのだ。
だって、彼の隣でしか見られない、彼の表情を、これからも見ていたいから。

「これからもよろしく、キリトくん」
「こっちこそ、よろしく、アスナ」




の内の覚悟

END!

──────
キリトくんの隣に立っているのは、多分大変なんじゃないかって話。
でもきっと、そういうのも含めて、頑張ってくれる子だと思います。



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