火花を散らす。後編

※小説のネタバレががっつりあります。
ユージオVSヴァサゴ。
キャラ崩壊はない、と思います。

どちらとも付き合ってません(重要)

ユージオとヴァサゴのVSみたいなぁと思って書き始めたらとても楽しかった。

――――――――――――

 SAOファミリーは、キリトの知らないところでこう言われている。

 「キリト親衛隊」と。

 SAOに関わったもののほとんどが、キリトのファンになる。
 そして、特に交流の深かったものは、高確率でキリトに恋をする。

 キリトは、そんな事実を知らずに、今日も仕事をこなすのである。


――――――――――――



▼クエスト:火花を散らす



「……いい度胸してんじゃねぇか」

金本との撮影がひと段落し、控え室で次の撮影の準備ができるまで待機していたヴァサゴは、スマホを片手に目に剣呑な光を宿して画面を見つめていた。

「俺への当てつけにしちゃあ、よくできた作戦だなァ。キリトもなに呑気にメシ食ってんだ?」

──────ヴァサゴは、これでもかというほど冷たい目をしていた。

「あー、まぁいい。今日は特別な日だからな」

ヴァサゴは喉を鳴らすと、プライベート用のスマホのメールをなぞった。
獲物を定めた獣のように鋭い瞳は、ユージオとの食事でメインの肉料理を頬張っているキリトに向けられていた。

「油断してると、すぐに喰っちまうぞ、キリト……?」


+++


『"愛"。この言葉は、色々な意味で今日日使われておりますが、人間の最も根源的な欲望であり、原義は「渇き」であり、人が喉が渇いている時に、水を飲まないではいられないというような衝動を云うとされています。
それに例えられる根源的な衝動が人間存在の奥底に潜在しており、そこでこれを「愛」や「渇愛」と訳し、時には「恩愛」とも訳されます。
苦痛を受けるものに対しては憎しみを避けようという強い欲求を生じ、楽を与えるものに対してはこれを求めようと熱望します。苦楽の受に対して愛憎の念を生ずる段階であるとされます。
──────ですから私は……愛とは、ためらわないことである、と考えます』


誰かが、テレビの奥で、そう言っていたことを思い出した。

──────ためらわないこと。あぁ、確かにその通りだろう。
しかし、それだけでは収まらないものもあるのではないか。
それは、「ためらわないこと」ではない。
喉が渇いているのに、水を飲むことをためらわないような、そんな意味ではない。

愛とは何か、など、答えを出せるはずもないのだが、しかし俺が考えている愛は、そう言ったものではないことは確かである。

それさえあれば、何もいらない。

食事も、睡眠も、排泄も。
愛があれば、全ていらない。

そう云う、本能さえも超越したものが、愛なのだと。
それはもはや、愛と呼べるものであるのか・・・・・・・・・・・・、と。


しかし、それは愛なのだろう。
それを感じたであろうその人本人が、愛だとそれを呼ぶのなら、それは紛れもなく愛なのだろう、と。

ガブリエル・ミラーにそれを問いかければ、彼はきっと「魂」こそがそれだと云うだろう。
茅場晶彦にそれを問いかければ、「可能性」もしくは「夢」こそがそれだと云うだろう。

───自分にとってのそれは、まさしく「キリト」そのものであると云うだろう。



「愛してるぜ、キリト」



キリトを。
あの子供を。
愛おしい、あの存在の全てを。

紛れもなく、これは愛だと、そう云えるのだ。


++++




「愛してる、っていい言葉だよね」
「へ?どうしたんだ、ユージオ」

メインを食べ終わり、色々な話が進む間にユージオがそんな言葉をこぼしたので、キリトはキョトンとしたままユージオに問いかけた。

「キリトがさ、K監督と、他の役者の人たちと演じて、作り上げていくあの世界。あの世界にはさ、いっぱい愛が溢れているだろう?
キリトはたくさんたくさん傷ついて、だけど、たくさんたくさん愛されてる。
そして、キリトも同時に、大きくて広くて深い愛で、みんなを包んでいる」

そう言ったユージオの瞳は穏やかで、キリトは、ユージオのその瞳が好きだった事を思い出した。

「だからね、僕は、愛っていい言葉だなって思ったんだ。
だって、キリトを表現する言葉みたいだから」
「……恥ずかしいことを言わないでくれ」

真っ赤な顔を覆いながらそう呟いたキリトに、穏やかな瞳のままユージオは返した。

「照れないで。本当のことだから」
「……それを言うなら、ユージオだって"愛"って言葉がよく似合うぞ。俺以上に」
「えぇ、そうかな?」
「そうだよ。……お前がいてくれたから、今の俺があるんだ。ずっと、寂しかった俺を、救ってくれた。お前が、ユージオとアリスが、いてくれたから。だから、俺は愛って言葉は、ユージオの方がふさわしいと思う」

グラスの中の少し大きめの氷が、キラリと光った。
……ここから見える夜空は、とても綺麗でロマンチックだ。
だからきっと、こう言うキザなことを言っても、笑われないと思いたい。
本当のことだから、笑って欲しくないと言う気持ちもあるが。

「───キリトは、優しいね」
「ユージオの方が、優しいよ」
「ふふ。じゃあ、お互い様かな」
「うん。……はは、やっぱり照れるな」
「ふふふ、そうだね」

キリトはユージオとグラスを合わせて乾杯すると、水を飲み込んだ。
火照った顔が、少しだけさまされたような、そんな気がした。



+++


 大満足のフレンチのコースを食べ終わった二人は、帰路に着くこととした。
ユージオがキリトを部屋まで送ると言って、キリトもまだ名残惜しかったので送ってもらうことになり、二人でキリトの住むマンションへと向かった。
二人がキリトの部屋のすぐ近くまでたどり着くと、なんとばったりそこで、ヴァサゴと顔をあわせることになった。
『偶然』、ヴァサゴが部屋の外に立って、今まさに部屋へと入ろうとしていた瞬間に出くわしたのだ。

「へ!?ヴァサゴ!?」
「……ほーお、彼氏と一緒にご帰宅とは。浮気は感心しねぇなァ、ハニー」

ヴァサゴは普段よりワントーン低い声でそう言った。
対するユージオも、ヴァサゴに対して、いつもなら絶対にしないような表情をしていた。
口元は笑っているが、目が笑っていない。
しかしキリトはそれよりも、先に訂正を入れておくことにした。
怖い二人など、相手にはしたくないのである。

「か、彼氏じゃないし、ハニーでもないしっ!って言うか、なんでいるの?」
「つい昨日言ったはずなんだけどな。お前の隣の部屋に引っ越すってよ」
「あ、あれって、今日のことだったのかよ?早すぎない?」

キリトがアワアワとしている横で、一切口を挟んでこないユージオが逆に怖い。
後ろを振り向くこともできず、かと言って目の前のヴァサゴも超絶怖い。
凄みが効いていると言うのだろうか、もう顔整ってるのにそういう怖い顔しないでほしい。
泣きそう。アスナ、アリス、助けて。

そんな祈りが通じたのか定かではないが、突然キリトの部屋の扉が開いた。

「あ!やっぱりパパでした!お帰りなさい!」

キリトの部屋に、鍵を開けて無断で入れる人間など一人しかいない。
ユイである。

「ユイ!」

がばっとユイに抱きつくと、廊下だということも忘れて泣きついた。

「お帰りなさい、パパ。
もうすぐで帰ってくると思ったので、ちゃんと暖房をつけておいたのですよ!」
「んー!さっすがユイ!可愛いしピンチの時助けてくれるし、やっぱり自慢の愛娘だよー!」
「えへへー!もっと褒めてください!ユイ、パパに褒められるならもっと頑張っちゃいます!」
「もういまのままで十分可愛いし頑張ってるよー!」
「もう、パパったらー!」

きゃっきゃ、うふふ。

目の前の光景を言い表すとしたら、まさしくそれだろう。
そこにはまぎれもない「愛」があった。

「あ、そうだ。ユージオさんにヴァサゴさん。K監督から伝言です」

ユイがキリトにスリスリされている最中に言い放った一言に、名を呼ばれた二人はびくりと反応する。

「『愛しているのなら、今は黙って引きなさい』だそうです」

にぱー、と悪意のない表情でそう言ったユイに、キリトは首を傾げて「どう言う意味?」と聞き返すが、ユイもよくわかっていない様子で「わかんないです」と返した。

「あ、ユージオ、送ってくれてありがとう!フレンチ美味しかった。また今度はアリスと行こうな!あとヴァサゴも、今度ゆっくり話聞くからー!」

と。
それだけ言って、部屋の中へユイと仲良く入っていった。
ドアの向こうでは、きゃあきゃあと言いながら、
「お風呂はもう入ってきました!」
「そっか!じゃあ。俺がお風呂から出たら一緒にゲームする?」
「わぁ、この間の妖精さんのゲームですね!やりたいです!」
「今日は泊まってって大丈夫なんだろ?」
「はい!パパと一緒に明日現場に行くようにって言われました!」
「そっかー、じゃあ今日はいっぱい遊ぼうな!」
「明日に響くから、遅くても11時には寝ますよ!」
「はーい」
と言う会話がなされていた。

 それを聞いていたヴァサゴとユージオはと言うと、キリトが完全に部屋へと入っていったのを見届けてから、お互いにまた顔を合わせた。

「──今日のフレンチは、俺への当てつけか?それとも牽制のつもりか」
「どうとでも。僕は、キリトが喜んでくれることをしただけですから」
「その割には、あいつはお前を意識してねぇようだったが」
「それはあなたも同じでしょ?わざわざ部屋の前でキリトを待って、驚かせようとしてたみたいですけど、あいにくでしたね」

バチバチバチ。
盛大な火花が散るその空間は、キリトが立っていたのであれば悲鳴をあげてもおかしくないほど張り詰めていた。

「まぁ、今回のは宣戦布告っつーことで受け止めておいてやるよ」
「あなたにキリトは渡しません」
「……愛されてるなぁ、あいつは」
「愛されてますよ。当然」

ヴァサゴの一言に、ユージオはそう返したが、ヴァサゴは満足そうに笑うだけだった。

「じゃあな、キリトのナイトさん。せいぜい目を光らせとけよ。油断してると、すぐに俺があいつを掻っ攫っちまうからな」
「ご安心を。キリトは姫でもなんでもなくて、僕と同じ《剣士・・》ですから」
「───なぁ、お前、名前はなんて言うんだっけ」
「は?」

ユージオがいったその言葉に、ヴァサゴは今までとは違う瞳の色を宿した。
そして、きちんとユージオに向き直ると、ユージオに向けてその言葉を発した。
一瞬なんのことかわからず、聞き返したユージオは。
ヴァサゴの瞳の奥にある、自分に向けられたものではない、しかし深すぎる『愛』を見つけて、背筋を凍らせた。


「────ユージオ。僕の名前は、《剣士・・》ユージオ」


その言葉を聞いたヴァサゴは、赤い瞳をどろりと渦巻かせ、そして口元に笑みを浮かべた。


「……覚えたぜ。俺がキリトを喰らった暁には、あとでお前も一緒に棺桶に入れてやるよ」
「意味がわからないな。けれど、もう一度言うよ。あなたにキリトは渡さない」

そういったユージオに、ヴァサゴは喉の奥で笑うと、部屋へと入っていった。

ユージオはその扉を睨むと、くるりと後ろを向いてアリスの元へと帰っていった。
あいつは好きになれない。
ユージオは、ヴァサゴにそんな感想を抱きながら、足を早めた。


+++



───キリトが風呂へと入っていた、その頃。


「あ、もしもし。K監督ですか?はい、無事に伝言できました!えへへ、褒めていただけて嬉しいです!でも、本当にあれで良かったんでしょうか?」

ユイは、自分のスマートフォンを耳に当てながら、親しげに会話をする。

「あのお二人、あちらの世界では接触していなかったので、どうなってしまうか心配です。
……それに、なるべくならパパをあの人に近づけたくないです」

ユイの表情は気遣わしげだ。
もちろん、愛するキリトを想ってのことである。

「いくらK監督と契約したからといって、本当にあの人がおとなしくしてるとは思えないです。ユージオさんはアリスさんもいるし大丈夫だと思いますけど……」

どうなるかわからない。
予測できないそれが、何よりも怖いのだと。

「……パパがそれでもあの人を選ぶって言うのなら、ユイはいいです。でも、パパはまだ、向こうの世界のことを、思い出してないから」

ユイはそう言って、隣の部屋を睨みつけた。

「はい。K監督がそう言うなら、ユイも信じられます。それに、ユイも、パパを守ってみせます」

スマートフォンから聞こえた言葉に、ユイは微笑んだ。

「ユイー、あがったぞー」
「!じゃあ、K監督、パパがお風呂から出たのでこれで!はい、おやすみなさい!」
「ん、誰と話してたんだ?って、決まってるか」
「はい、K監督とおしゃべりしてました!」
「そっか。じゃあ、ゲームするぞー!」
「その前に、パパ、髪の毛をちゃんと拭くのです!」




ユイは先ほど浮かべていた表情を消し去って、キリトを追いかけていく。
その会話を、隣の部屋にいる男も、アリスと合流した青年も、知ることはなかった。



花を散らす。後編


END!
────────────

はい!更新せねば!と思い立って更新しましたが、しんどい。
これ書いてる最中にすでにしんどい。

オチを考えずに出発した結果、とんでもないことになってる。

個人的にはユージオ優勢。
ヴァサゴは知らない。もう知らない。

18巻しんどいしか最近言ってませんが酢酸は元気です。
ユイちゃんが可愛い。

ありがとうございました!



更新日:2017/08/22



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