火花を散らす。前編

※小説のネタバレががっつりあります。
ユーキリ。
キャラ崩壊はない、と思います。

付き合ってません(重要)。

ユージオとヴァサゴのVSみたいなぁと思って書き始めたらとても楽しかった。

2018/06/15追記
加筆修正したら話が少し変わりました。
キリト君が少々サバサバしております。

――――――――――――

 SAOファミリーは、キリトの知らないところでこう言われている。

 「キリト親衛隊」と。

 SAOに関わったもののほとんどが、キリトのファンになる。
 そして、特に交流の深かったものは、高確率でキリトに恋をする。

 キリトは、そんな事実を知らずに、今日も仕事をこなすのである。


――――――――――――




▼クエスト:火花を散らす



 マンションへ帰ると、部屋の鍵が開いているのに気が付いた。
普通ならば、泥棒か何かかとびっくりするところではあるが、俺はあまり驚かなかった。
このマンションの部屋の合鍵を渡している人がいるからだ。マンションの管理人さんには許可をいただいている。俺の部屋の合鍵を渡してあるのは、ユイとアリス、ユージオである。
その3人ならば、俺に断りなく部屋に入ることを許可されるのだ。
俺がなかなか家に戻れない時に、主にアリスが掃除してくれるのである。
 この部屋が開いていると言うことは、3人のうちの誰かがきていると言うことだろう。
俺は危機感なく、部屋へと入っていった。



「――――――やぁ、おかえりキリト?」


「ゆ、ユージオだったか」

 部屋に入ると、予想通りユージオが俺のベッドに座っていた。
そして、にっこりと、俺を出迎えた。

(あ、やばい。怒ってる)

 俺は思い当たる出来事がなくて、とりあえずユージオに、「た、ただいま」と返事をする。
そして、紙袋をベッドの隣に置いて、とりあえずベッドに座っているユージオの正面の床に正座をする。完全に怒られる体制だ。

「今日はとっても楽しい休日だったみたいだね」
「え、あ、ああ」
「ヴァサゴさんと、デートしてきたんだよね?」

俺はなんのことか察し、呆れたようにため息をついた。

「あのな、ユージオ。それただの嫌がらせだから」

それだけでユージオには十分だったのか、笑ったまま目をスッと細めて、ワントーン低い声で俺に話しかける。

「言い訳かい?」
「いや、言い訳じゃないって!」
「デートって、付き合ってる人とするものだって教わったけど」
「話を聞いていただけませんかねえ!誤解だって言ってるだろ?」

なんでこんなことに。
と言うより、何故俺はこんなことを聞かれているんだ?

「デートっていうのは比喩表現であってだな……」
「さあ、どうかな。僕のメールを無視するぐらい楽しかったんでしょ?」
「へっ、メール?」
「まさか気づいてないわけ無いでしょ?LIME見てごらんよ」

俺はそれを聞いて、ユージオにストップをかけた。

「ちょっと待て。ちょっと待ってくれユージオ。今なんて言った?」

俺の突然の態度に、ユージオは面食らったのか、もう一度繰り返した。

「僕が散々君にLIMEしたって話?」
「……それ、気付かなかったんじゃないぞ」
「へ?」

俺はユージオに事実を伝える。
証拠を見せるため、手早くプライベート用のスマホの画面を操作する。

「LIME……あぁ、通知がすごいな。……これはヴァサゴ、わざと黙ってたんだろうな」
「……どういうこと?君、自分でスマホ管理してなかったのかい?」
「ヴァサゴにランチの時に没収されたんだよ。プライベート用だったから、まぁ大丈夫だろうと思ってさ。なるほどな、12時過ぎにLIMEしてくれたのか……ごめんな、ユージオ」

 俺は素直に謝る。
道理で、あの時ヴァサゴがやたら今日は仕事がないか聞いてきたわけだ。
俺への嫌がらせか、単純に"デート"を邪魔されたくなかったのか。
これは一度問い詰める必要がありそうだ。
 そう考えていると、ユージオがホッとした表情で俺を見ていることに気がついた。
心当たりがなく、首をかしげる俺に、ユージオは微笑んだ。

「…………そっか、付き合ってないんだ。じゃあ今日もヴァサゴさんがキリトにメールの内容を教えてないだけか。つまりデートだと思ってたのはヴァサゴさんだけってことだね?それならいいんだ」

案外あっさりと、いやめちゃくちゃさっぱりと俺を許したユージオに、今度は俺が驚いた。

「怒ってないのか?」
「うん、だってキリトのせいじゃないしね。LIMEだけしかしなかった僕も悪かったし……まぁ、心配はしたけど。でももういいよ。あ、キリト。明日ってスケジュールどうなってる?」
「キバオウさん司会のバラエティにGGO組の俺とシノンと昌一先輩で出る予定だけど。
終わるのは午後4時ぐらいかな……。3期の撮影早くやりたいけど、まだ先になるよなぁ」

俺がそう答えると、ユージオは話を元に戻すように、こういった。

「わかった、4時過ぎだね。明日僕も撮影が午前で終わるから、夕食食べに行こう」
「へ?」
「いいよね?キリト」
「そ、そりゃもちろん、一人で食べるよりユージオと食べたいけどさ……」

何故だか威圧を感じ、俺がユージオの剣幕に押されて頷くと、ユージオはもう一度にっこり笑って、

「決まりだね。あぁ、そうそうキリト」


――――――すっぽかしたら、許さないから。


耳元で囁かれたその言葉に俺は何度も首を縦に振った。



+++



「Ah?キリトとの関係?」

 ヴァサゴは、自分の部下役であり、現実世界では後輩にあたる金本敦と仕事の休憩時間に談笑していた。
最初は、誰が憧れか、と言うささいな話題であったはずだが、だんだんとその話題が「この間のキリトとの"デート"の感想」へと移り変わっていったのだ。
キリトのSAOファミリーでの人気は、この後輩の金本も例外ではないのだった。

「キリトさんとどういう関係なんすかヘッド!デートって!デートって!」

 金本に詰め寄られ、ヴァサゴは顔をしかめながら「近ェよ」と制した。
だが金本の興奮は収まらず、ヴァサゴはため息をついた。

「ありゃただのキリトへの嫌がらせだ。間に受けんじゃねぇ」
「とか言ってヘッドめちゃくちゃ楽しんでたでしょう!キリトさんとお食事デートとか羨ましすぎっすよ!」

 まぁ確かに、下心しかなかったが、当の本人に自覚がないのでは意味がない。
それにしても、鬱陶しい。
この男も、昨日のLIMEの相手も、誰も彼もだ。

「羨ましいなら、アイツから誘われる程度に売れてみせろよ」

適当にそれだけ返すと、金本が思い出したように俺に告げる。

「そういえば、キリトさん今日もデートらしいっすよ!」
「……あ?」
「ヘッドキリトさんのmutterフォローしてるんでしょ?見たほうが早いっすよ」

やけに熱心に言うものだから、オレはスマホを開き、キリトのログをみた。
すると、どうだ。


『今日はユージオと夕食に行くぞー!どこにいくのかはお楽しみ、だってさ』


と。

「……尻軽が」
「ヘッド本音出てるっすよ」

オレが思わず舌打ちすると、金本がツッコミをいれた。

『金本さーん!次撮影おねがいします!』

スタッフに呼ばれ、金本が顔をあげる。

「ウィーッス!んじゃヘッド行ってくるんで、後で詳しく聞かせてくださいね!」


そういってバタバタと駆けていく後輩を横目で見ながら、ヴァサゴはスマホの電源を切った。


+++



「キリト、準備できた?」
「ん。待たせてごめんな」
「待ってないよ」
「……昨日もこう言うやりとりしたから、デートみたいだなって話になったんだよ」
「そう。じゃあやっぱりあの人の勘違いってことだね」

 ユージオがやけにいい笑顔で言うものだから、俺も波風立てないように頷いておいた。
この世をうまく渡るためには、こう言うことも必要なのだ。

「そういえば、ユージオと二人きりの食事は久しぶりだな」
「そう言われてみれば、そうだね。いつもはアリスもいるから」
「……こんな事言うとアリスに怒られそうだけど、少し嬉しいよ」

2人っきり、という言葉にユージオはどきりとしたが、平静を装って会話を繋ぐ。

「アリスが一緒なのはいや?」
「嫌じゃないさ。けど、アリスは女の子だろ?男同士でしかできない会話もたまにはしてみたいわけですよ」
「ふふ、アリスが女の子、ね。ちゃんと意識してるんだ」

ユージオがからかうようにそう言うので、俺も笑った。

「するさ。少なくとも、3期は立派なヒロインだろう?ユージオも、ただの幼馴染として接しているとダメ出し食らうぞ」
「そうだね、気をつけるよ」
「まあ、もう少し先になるだろうけどな」
「早く演じたいよ」
「……俺も、そう思うよ」


キリトとユージオはそんな会話をしながら、目的地へ向かうために、玄関を開けた。


+++



「ほうほう、これはまた……!」
「君、ヴァサゴさんとはイタリアン食べに行ったんでしょ。だったら今日はフレンチかなって」

 ユージオが連れてきてくれたのは、マンションからそんなに遠くないフレンチレストランだった。完全予約制で、決まった時間にしか開かないなかなか有名な店らしい。
それゆえ、ここもセキュリティ面では問題がなかった。
今日は平日とあってかお客さんは少ないようだったが、それでも見られないに越したことはない。

「今日は僕が奢るよ。なにたべたい?」
「いや、自分で払うよ」
「ヴァサゴさんには、奢ってもらったんでしょ」
「あれはアイツに嫌がらせされた分を払わせただけだ。俺はユージオに奢られるほど切迫づまってないぞ」

 俺はそういうと、有無を言わせずにメニュー表をユージオに手渡した。
ユージオは苦笑して「わかったよ」と答える。
売れていて、値段も気にならないと言うことは問題ではないのだ。
心意気の問題である。
 それはそれとして、と俺はメニュー表を見て震え上がる。

「……なぁ、ユージオ……」
「話は先に頼んでから、ね。今日はとりあえずBコースのディナーにしようか」
「あのですねユージオくん。これ頼む前に聞かなきゃダメだと思うの」
「もう、なんだよ」

俺がしつこかったので、ユージオがメニュー表から顔をあげた。

「俺、フランス式のマナーとか知らないからな?イギリス流と間違うかもしれないし」
「あぁ、そんなこと。マナーは基本的に相手に不快感を与えずに、食事を美味しく食べるために必要なものだからね。美味しく料理をいただけるなら、自己流でも平気だよ」
「そうか、それならよかった。じゃあ、俺もユージオと同じコースを頼む」

 俺との会話が終わると、ユージオはベルを鳴らした。
最近、俺の舌が肥えてきている気がする。
それもこれも全部SAOファミリーのみんなのせいだと思う。
ヴァサゴといいユージオといい、なんだってこう高級でおいしいものばっかり俺に食べさせようとするのか。
俺が庶民料理に満足できなくなったらどうしてくれるんだ。

「何考えてるの?」

ユージオが怪訝な目を向けてきたので、俺ははっとして顔を上げた。

「俺が庶民の舌に戻れなくなったらユージオのせいだからな……!」

 ぐぬぬ、と唸ると、ユージオは「なにそれ」といって笑った。
料理が運ばれてきて、最低限のマナーに気をつけながら、お高い料理をおそるおそる口にした。
ユージオは慣れたもので、フォークとナイフを器用に使って料理を消化していく。

「ところでキリト」
「ん?」

 前菜を食べ終わったところで、ユージオがにっこりとして俺に話しかける。
おれはそのスマイルをみて、ヒッと声を出した。
なぜなら、この間も同じ笑みを見せられたからだ。

「この間のヴァサゴさんとのデートについて、詳しく教えてくれる?」
「ま、まだその話持ち出すんですか」
「そりゃあ、大事な大事な幼馴染がこの今の業界で一番の色男とデートなんて、ねぇ?」

 一体なにが「ねぇ?」なのかまったくもってわからなかったが、ユージオは何故だかとても知りたいらしい。
さっきからやたらとその話題について触れるあたり、やはり自分は何かとんでもない恐ろしいことをやらかしてしまったんではないか、と気が気でなくなる。

「このあいだのこと、まだ怒ってるのか?」
「あぁ、LIMEの話?それはもういいよ。問題は、君にヴァサゴさんがどういう態度で接したのかってこと」
「?俺が、じゃなくてか」
「ヴァサゴさんが、だよ。抜け駆けはいけない事だと知っててmutterに載せたなら、なおさらだ」

 抜け駆け。
なんの話だか読めないが、聞かないほうがいい話だと言うのはなんとなくわかる。
俺は次に運ばれてきたスープを飲み干すと、この間のヴァサゴと出かけた話をかいつまんでユージオに話した。

 休日だったので、久しぶりにヴァサゴと食事に行きたかったこと。
食事に連れて行ってもらったときにアイツの写真を撮らせて欲しいと言ったこと。
写真をヴァサゴにも撮られて、それを「デート」と称してアップされたこと。
通知が鳴り止まなかった俺のスマホをヴァサゴが没収し、そのまま帰るまで返してくれなかったこと。
服を選んでくれるというから、服を選んでもらった事など。

それら全てを聞いたユージオの顔は想像以上に険しく、時折「へぇ……」「ふぅん……」と声を漏らしていた。

「ゆ、ユージオさん……?」
「あの大きい紙袋が、服?」
「そ、そうです」
「ってことは、全身コーデしてもらったの?」
「ああ。俺の服が黒一色なのはダメだって話してて。現役モデルのセンスとやらにお任せしたけど」

そこまで聞いて、ユージオはふふ、と不気味に笑った。
なんだか嫌な予感を感じとり、俺はグラスに入った水を飲む。

「なるほどね。あぁそうそう、キリト。ここのお店、礼儀に厳しくないって言ったでしょ?」
「お、おう。それが?」
「muterrに写真あげてもいいよ」
「へえ、いいのか?じゃあ次のメインを撮らせてもらうよ。もちろんユージオも一緒に」
「わかった、いいよ。ファンサービスは大事だからね」
「さすがユージオ、話がわかる。……お、噂をすればメイン料理だな」

 キリトは嬉々とした様子でスマホを取り出し、カシャカシャと何枚もメイン料理の写真を撮った。
その後、ユージオが微笑んでこちらを見ている姿も写真に収める。

「よし、加工した。
『フレンチ料理とユージオ。すごい美味しいぞ!羨ましいだろう!』
と。これでいいか」

 加工した写真をmuterrにポストすると、瞬く間にファボとRPがされていく。
この間のことで学んだ俺は、ツイッターからの通知を俺がフォローしてる人に限定した。
そっちのほうが、この間みたいなことにならないと思ったからだ。

「……うん、いい感じだね」
「そうだろう、もっと褒めていいぞ」
「調子に乗らないの。それとこれ、文面によっては僕もキリトに食べられるみたいになってる」
「……ユージオは美味しくないぞ……?」
「失礼だな、美味しいかもしれないだろ。いやそうじゃなくて」

 ユージオは俺にツッコミを入れると、再び料理に手をつけた。
俺もスマホをしまい、冷めないうちにメインを頂く。
ナイフとフォークでメインの肉料理を切り分け、口に運ぶ。
すると、いつの間にか目の前にカメラが構えられており、パシャリと音がなった。
ユージオが美味しそうに食べているキリトの写真をすかさず撮って、muterrに投稿したのである。

「えーっと『キリトとディナー。おいしそうに食べてます。連れてきて良かった』と」

 これも瞬く間にRPされたが、圧倒的にファボの方が多い。
ついでに、アリスからリプがきた。

「『キリトはお行儀よくしていますか?』だって。ふふ、心配性だなぁ」
「なんだと?なら『子供じゃないから大丈夫!』って自信持って返しておいてくれ」
「……アリス余計に心配してるけど」
「これは一度話し合う必要があるな……」
「うん、僕は多分アリスの方に着くと思う」
「う、裏切りか、ユージオ……!?」
「普段の行いの差、かな……」


 キリトとそんな風に話しながら、美味しく料理を食べ進めていく。
胸の内のもやもやが、少しは晴れた気がしていた。







花を散らす。前編



to be continued…….&END!

――――――――――――――――――

▼修正前あとがき

長くなったので前編と後編分けました!
ユージオVSヴァサゴ書いててめっちゃ楽しいです!
相変わらずの無自覚タラシキリトくん。
そろそろ気づいてあげて・・・(・H・)

ところで!最近クエスト(アンケート)や拍手からお祝いの言葉がたくさん届いております!
ありがとうございます!とっても嬉しいです!
それに伴っていくつかリクエストも来ておりますので、9万ヒット記念にリクエスト消化していきたいと思います!

なるべくリクエストに応えていきたいと思います・・・!
どうぞゆっくりお待ちください!


あと個人的に。
アンケートでモルテ入れてくださった方ほんとにもうありがとうございますどなたか存じませんがめっちゃ嬉しいですもうすきです可愛いですよねモルテなんであんなにかわいいんだってくぐらいかわいいんですよあとなんかクエストの意見のところに「キリト君LOVEのモルテさんとツンデレキリト君良い」って書いてあって私もですアアアアってなってましたほんともうなんであんなかわいいんでようね個人的には二人共受けみたいなかんじですけどそこはもうキリトくん総受け脳が働いていい感じになってくれてますがあの二人ほんとかわいいなんかもうモルテずるい私をモルテ厨にした責任は重いほんとにもう需要と供給が釣り合ってない早く私にモルキリ恵んでくださいアアアア

はい。


▼加筆修正後あとがき

このシリーズのキリトくんがあまりにもあざとすぎて自分の口に合わなくなってきたので、少々塩加減を調整して見ました。
お口に合えば幸いです。



加筆修正:2018/06/15



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