毒の実



「なぁクライン」

 俺は恋人のクラインに向かって話しかける。
クラインはベッドにもたれかかって雑誌を読んでいた手を止めて、ベッドの上の俺を見た。

「ん?」

 こういう時、雑誌を読みながらではなく、ちゃんとこっちを向いてくれるクラインが好きだ。

「あのさ」

俺は内緒話をするかのように、クラインに耳を近づけて囁いた。

「すき」

クラインは驚いたように目を見開くと、へにゃっとわらった。

「おう、俺も」

 というクラインに笑みを返す。
こういう日常が、愛しい。

「キリトよー、おめぇさんってさ、白雪姫みたいじゃね?」
「白雪姫?」
「オウ。黒いきれいな髪とか、綺麗な黒いまん丸な目とか。白い肌とか、すっげぇ可愛いところとか、な」
「……言ってて恥ずかしくならないのか」

 俺は呆れたように言って、動揺を隠す。
クラインはそれに気付いているようで、ニヤニヤと笑っているが。

「だいたい、そんなこと言ったら俺、魔女に逆恨みされて毒りんご食わされてずっと眠ったままになっちゃうじゃんか」

そう返すと、クラインはにぃーっとわらった。

「オイオイ、キリの字。そんなときこそ王子様だろ?」
「王子様って柄じゃないと思うけど……」
「オメェさんだって、ただ眠ってるだけで終わるとは思えねぇな」

 2人で顔を見合わせて笑う。
その通りだ。俺はそのまま眠ってやる気などないし、魔女にみすみす騙される気もない。

「そういうクエスト、なかったっけ?」

 俺はクラインに後ろから抱きつきながら答える。クラインは「どうだったっけなー」と言いながら、俺の唇を奪った。くちゅ、ちゅっと甘い音を立てて交わされるキス。あまったるいけど、嫌いじゃない。

「キーリトっ」

 クラインががばっと体を起こして、俺をベッドに押し戻す。
完全にクラインに押し倒された俺は、くすくすと笑う。

「王子がそんなんじゃ、姫は怖くて起きれないんじゃないか?」
「バーカ、怖いなんて思うわけねぇだろ?俺の惚れた姫さんなんだからよ」

クラインはうすく笑うと、やさしく触れるだけのキスを落とした。

「……ッそういうとこ、ほんとずるい……」

 俺は顔を真っ赤に染めながら、クラインにぎゅっと抱きついた。真実の愛で姫が目覚めるというのなら、俺はずっと眠ったふりをしていたい。だって、こんな王子よりかっこいいヤツがいつも俺にキスしてくれる。それで、幸せな目覚めを繰り返すんだ。

「だいすき、クライン」
「俺も愛してるぜ、キリト」

 2人はお互いに口にすると、どちらからともなくキスをした。
とても幸せだったので、そのままどちらかの息が切れるまで、ずっとキスを続けていた。


の実



END!
――――――――――――――――――
白雪姫。

更新日:2015/05/18
改稿日:2020/01/24

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