少女はいばらに護られて



 眠い。とにかく、眠い。

「おや、眠くなったかな?」

茅場さんに声をかけられて、目をこする。

「ん……ちょっと、うとうと、してた」

 ふぁ、とあくびを漏らす。
ここのところ徹夜で研究に明け暮れていたから、すこし睡眠をとったほうがいいかもしれない。作業効率も落ちるし。でも、もうちょっとでキリのいいところまで終わるから、そこまで終わらせてしまおう。

「和人」

 恋人の茅場晶彦も徹夜続きのはずなのに、俺よりやつれてはいないようだ。
この人は自分の興味のある分野になるととことん突き詰めて睡眠を忘れてしまう様な人だから、この人こそ休息が必要だろうに。

「体に悪いから、寝なさい」

そう言われて、俺は茅場に手を伸ばした。

「晶彦が寝るなら、寝る」

 ぎゅっと抱きしめた体は細くて、心配になる。
まぁ、俺はもっと細いんだけど。

「……仕方がないな」

晶彦は苦笑して、俺と一緒にベッドへ向かった。

「晶彦は眠くないのか?」

 研究室の中には寝泊りもできるような作りになっている部屋もある。ベッドなどが備え付けられているのはそのためだ。仮眠室と言うよりは、茅場専用のベッドと言うのが近いか。VRMMOにダイブするために必要なベッドとは別に、茅場の部屋が用意されている。その部屋にしっかり鍵がかかっていることを確認した晶彦は、俺の隣に座り、笑った。

「うとうとしている君を見ていたら、眠くなってきたよ」

俺はふわっと笑って、晶彦にキスをした。

「えへへ……晶彦、おーじさま、みたい……」

 寝ぼけているのか、考えずに言葉をつむぐ和人。その言葉を聴いて、晶彦は目をしばたかせたが、すぐにふっと微笑むと、和人をベッドに寝かせた。

「────私が王子というのなら、君は姫だな」

 さらりと俺の髪をなでる。
和人は幸せそうに笑い、茅場をベッドに引きずり込んだ。

「いっしょに、ねよーぜ」

 和人は相当に眠いのだろう。
私は薄く笑って、和人の隣に体を寝かせた。

「次に起きるときには、キスをして起こしてあげよう。童話の中の、少女のように」

 少女はいばらに護られて、長いときを眠り、そして真実のキスで目を覚ます。
安らかな吐息を立てて眠る和人の頬をなでてから、晶彦も笑った。

「愛しているよ、和人」

晶彦も眠気に身を任せ、和人の隣で眠りについた。


+++


 次の朝、晶彦が目を開けると、そこには愛しい恋人の姿があった。
晶彦は微笑み、昨日の話を思い出した。すやすやと眠る和人をもう少し寝かせてやりたいとも思うのだが、やはり欲には負けてしまって。

(これで起きなければ、もう一回。まだ起きなければ、もっと深く……)

 唇を近づけながらそう思う。唇を重ね、和人は身じろぎをする。
うっすらと目を明けた恋人に、少し残念な気持ちも抱きながら、晶彦は微笑んだ。

「おはよう、お姫様」

 私は君を護る王子だが、君と私以外寄せ付けない、茨になるのも悪くない。
和人は私を見つめて、ふわりと笑った。

「まだ、起きない」

……困ったお姫様だ。
晶彦はそれを嬉しく想いながらも、和人にもっと甘いキスを贈った。
和人は晶彦のキスを受けながら、愛してるよ、とつぶやいた。




END!
―――――――――――――

眠り姫。

更新日:2014/11/02
改稿日:2020/01/24

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