愛と執着

※R-17表現が多め。

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 予定は狂ってしまったが、俺は無事にPoHとの待ち合わせ場所のNPC宿に辿り着くとチェックインを済ませた。PoHのいる部屋はわかっているものの今から足取りが重い。ここに辿り着くまでに妨害らしい妨害はなく、ピナも俺と別れた場所からは俺を追っては来なかった。それに少々安堵しつつ、追われる立場というのもなかなか厄介なモノなのだなと現実逃避をしながら部屋をノックした。到着した旨はメールで先ほど送ったので、俺だとすぐに気付くだろう。そう思ってドアの前で待っているとすぐにドアは開いた。そして次の瞬間、腕を掴まれそのまま部屋の中に引き摺り込まれた。声を上げることもできず、無常にも部屋のロックがかかるシステム音が聞こえた。

「よくもオレの手から逃げやがったな」
「あの時はしょうがなかったじゃん……」
「オレが聞きたい返事じゃねえ」

 そう言ったPoHは噛み付くようにキスをしてきた。ング、と息を詰めるが逃がしてはもらえない。そのままどんどんベッドに近づいていき、唇が離れた瞬間押し倒された。

「なぁ、キリト。覚悟決めた顔してるようだが、オレが逃してやるとは限らねぇぞ」

 PoHの言葉に俺は苦笑する。

「お前は逃がしてくれるよ。だってそういう関係だもん」

 俺の顔をじっと見たPoHは装備を一気に解除した。俺の上にのしかかってくる大型の獣のような男に、俺は装備を解けないまま組み敷かれる。

「それにしても、よくアスナ達から逃げ切れたな」
「他の奴の話をベッドでするのはわざとか、アァ?」

 こめかみに青筋を浮かべたPoHに俺は薄く笑う。

「お前を捕まえるのは苦労しそうだ」

 その言葉に小さく驚いたらしいPoHは一瞬硬直した後、盛大にため息を吐いた。

「……キリト」
「ん?」
「捕まえてみろよ」

 そう言ったPoHの目はどろりと紅く濁っていて、どこまでも続くその深淵のような瞳に絡め取られていくような心地になった。PoHにすら滅多に言わないことだが、俺はこの俺だけを見つめてくれる瞳が好きだ。悪魔に魅入られたように身体が痺れて、どこまでも堕ちていきたくなる。

「好きだよ、PoH。愛してる」

 だから俺は代わりにそう言って、自ら口付けをするのだ。
好きだ、ということにもう躊躇はない。愛を口にすることも。
そこにPoHと同じほどの熱量はない。だがそれでも、俺がそういうことでPoHが満たされてくれるなら、それでもいいと思ってしまった。
大嫌いで、最低なやつには代わりない。
しかし、それも含めて、愛してしまった。
もう、戻ることはできない。

「ん、ふ……」

 キスをした俺を愛おしそうに抱きしめ、そのまま俺の服を脱がすPoHに俺は抵抗はしない。ズボンが邪魔だ。早く、裸で愛し合いたい。

「も、待てない。自分で脱ぐ」
「その格好、久々に見たんだ。もう少しいいだろ?」
「やだ。お前だけ、ずるい」

 普段は服を着ているPoHと脱がされている俺という構図だが、今は逆だ。PoHは裸で、俺だけ服を着ている。いつもは俺だけ脱がされてずるいと思うのに、今は肌を合わせられない方が嫌だ。

「誘い方が上手いな」
「ん、ぁ」

 上機嫌なPoHにまたキスされて、俺は小さく喘ぎながら装備を解除した。纏うものが何も無くなった俺を、少しばかり残念そうに見たPoHの頬を引っ張る。

「ぷーうー?」

 俺が拗ねた顔をしながらあえてゆっくり呼んでやれば、PoHが今度は嬉しそうに破顔して俺の顔を覆うように伸びた髪が落ちてきた。

「オマエに求められるのは、良いな」
「っ、あ」

 乳首を押しつぶすように指を動かしながら、股の間に身体が割り込んでくる。

「キリト……」
「んん……っ」

 甘ったるい声が耳元に響く。ゾクゾクするその声色に、俺は身体をびくりと震わせる。どれほどこの声を聞いても慣れることがない。全身から色気を振りまいているこの男が本気になっているのが俺だという事実に眩暈がする。

「オマエしかいない、キリト……。オレには、キリトしか……」

 縋り付くように首筋に口付けられる。腰を持ち上げられて、秘所が晒される。もう随分と熱を持った身体にはPoHの一挙一動が快感になる。太ももを撫で上げられて、快感にのけぞった背中に手を入れられた。PoHの方に引き寄せられた俺は、空いた両手をPoHの首に回した。それぐらいしか思いつかなくて、でもそれを本当に嬉しそうに愛おしそうにしてくれるものだから、ああこれでいいのだと思った。
 前戯に時間をかけるのは、言われた通り1ヶ月の間俺を離さないからだろう。離れがたいのは俺も同じだ。まあどうせラフコフ殲滅のための準備はそれぐらいかかるだろうから、俺はPoHともう少し一緒にいても構わないだろう。明日明後日の話ではないのだし。

 俺しかいない、というこの男のわがままに付き合ってやるぐらい、構わないだろう?


+


「あ、ぁあ!」
「ッハ、く……、ン……」
「ひっ!あ、あああああ!」

 喘ぎ声が大きく響く。聞いている人間がPoHしかいないという事実がそうさせる。PoHも喘いでいて、その声が耳元で聞こえる度に腰がずくりと疼く。

「可愛い、キリト、キリト」
「ま、待って、も、もうだめ、だめ」
「ダメじゃねえだろ?っ、大丈夫だ、オレだってもう保たねえ」
「ばか、ん、ああああ!」

 何度目かもわからない快楽に大きく喘ぎ、俺はくたりと力を抜いた。もう何時間こうして甘ったるく身体をつなげているのかわからない。PoHが力の抜けた俺の身体を好き勝手していたかと思うと、多少は満足したのか俺の隣にどさりと横たわった。

「……俺まだ知らないんだけどさ」

 俺が声を出して隣を見ると、なんだ、というような視線を返されたので答える。

「全力疾走した後みたいな感じなんだってな」
「なんの話だ」
「セックスの男側の話」

 俺がそう言えば、PoHはにやと笑って「そうだな」と答えた。

「経験ないって実際にオマエの口から聞くと興奮してきたな」
「知ってたくせに」
「知ってるのと自白するのとじゃ違うだろ」
「……全力疾走しても気持ち良くないけど、お前は気持ちよさそう」

 そう言ってやれば、PoHは嬉しそうに答えた。

「気持ちいいに決まってンだろ。オマエが相手なら当然だ」
「すぐそうやって言う……」
「事実だからな」

 甘くてとろけるような声で囁かれてしまえば、降参するしかない。

「1ヶ月?」
「当然だろ」

 愛おしそうに頬を撫でられ、俺はその手に自ら擦り寄った。

「俺は嬉しいけど。部下はいいのか」
「オマエ以上に優先させるモンがあるかよ」
「ないな」
「クッ」

 俺の答えにPoHは喉を震わせて笑った。でも、俺にこの男が繋ぎ止められているのは好都合だ。どうせ俺もPoHもお互い以外に興味はないのだから。

「飽きてきただろ」
「オマエに?まさか」
「いや、ラフコフの舵取りに」
「……」

 PoHは図星をつかれたのか黙ってしまった。俺はくすくすと笑う。そんな俺を見て、PoHはゴロリと寝そべったままベッドに頬杖をつきながらこちらを見た。

「バレてないつもりだったんだがな」
「俺はお前のそういうのわかっちゃうからなぁ」
「へぇ?」
「ま、この話はお前と別れる時でいいよ。……今は、お前との生活を楽しみたいし」

 これは本心だ。面倒事などない方がいいに決まっている。しかしPoHはその言葉をそのまま受け止めるつもりはないらしく、俺を抱き寄せた。

「別れるとかいうんじゃねェよ。離れるって言え。それに貴様がそうでも、周りはウルセェだろうな」
「そこは仕方ないだろ。お前自体が厄介ごとの塊なんだから」
「そりゃオマエもだろ、《黒の剣士》」

 わざとらしく二つ名で呼ぶPoHに、俺は小さく口に出す。

「……英雄になるのは、もう少し先でいい」
「!」

 俺は目を細めてPoHの胸に頭を埋めた。

「せめて、あとすこし。──────それまでは」

 この世界を、終わらせるために。
ヒースクリフも、PoHも、きっとそれ以外も。

俺が幸せでいるために。

「……キリト」

 PoHが俺を呼ぶ。俺はその言葉に答える前に口付けた。
この歪な関係も、もうすぐで終わる。

「愛してる」

 何度も繰り返されたその言葉に、俺は安堵してしまう。きっとどんな結末でも、この男は俺をずっと愛してくれるだろう。だから。

「知ってるよ」

 そう返すのだ。
今までも、きっと、これからも。




と執着




END!
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キリトくんももうとっくにPoHに執着している話。

今更の時系列ですが、個人的にはSAOでダークリパルサー手に入れた後の空白の2ヶ月を想定しています。ラフコフ壊滅より1ヶ月前って感じです。そのための準備はもうほぼ終わってるので、あとは1ヶ月イチャイチャしてお別れ、のはずなのですが……そううまく行くわけもなく。

次回はヒースクリフサイドやらラフコフメンツの小話を書きたいですね。この2人がいちゃついている裏ではこうなってますみたいな感じで。番外編にしてもいいんですけどまあそれはそれということで。

+
▼近況報告(飛ばして大丈夫です)
ところでSAOのプログレ映画4週目ですね。案の定見れてないです。3週目特典欲しかったけどまあPoHさん出ないしええやろと思って放置キメました。原作厨なのでアニメオリジナルは気合い入れないとちょっと見れないんですね……ヴァサゴくん(PoH)出るなら教えてください。

+

更新日:2021.11.17

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