線引き

アス→キリ要素多めです。

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 見つかってしまった。
俺はフードを目深に被っていて黒いマスクを装備しているが、ここまで接近された挙句にピンポイントで見つかって、しかも相手が彼女である。隠し立てはできない。

「……や、アスナ」

 俺は困ったように声をあげた。あのまま無視して逃げてもよかったが、彼女に不誠実な真似はしたくなかったし、何よりなんでここがわかったのか理由を聞かなくてはならなかった。彼女はオレンジカーソルになったことがなかったように思うが、アルゴ経由でこの道を知ったのだろうか。

「久しぶり」
「……えぇ、本当に、久しぶり」

 そう言って一歩近付こうとするので、俺は一歩後ろに下がった。アスナが傷ついた顔をする。彼女の装備は血盟騎士団のものだった。つまりは、最上の装備ということだ。俺とやりあうつもりはないだろうが、それでも彼女に近付くのは賢明ではない。少なくとも、今はまだ。何せヒースクリフからアスナに何も伝わっていないのだ、伝わっていたならそもそも俺の捜索などとっくに打ち切られているだろう。それがないということは、ヒースクリフがアスナたちに何も伝えていないということだ。俺の要望通りといえばそうなのだが、本当にアスナたち《KSA》とエンカウントするとは思っていなかったので戸惑った。

「キリトくん、帰りましょう。みたところ、貴方は今1人なんでしょう?他に誰もいないものね」
「……そうだな。でも、今はまだ戻れないんだ。ごめん」
「どうして!」

 アスナが叫ぶが、こればかりは仕方ない。今戻ったところで攻略にすぐ戻れるわけでもないし、アルゴとヒースクリフに託してある攻略組の掃除の件はまだ片付いていないはずだ。討伐隊を組むにしろ、そちらが優先であることは3人の共通項である。そして、それを知らされていないアスナに協力を頼むことで彼女が内部の人間から狙われては本末転倒でもある。《KoB》にも数人ラフコフの息がかかった人間がいたことはアルゴの調べでわかっている。それであるなら、まだ彼女には何も知られていない方がいい。これは彼女を守るためでもあるが、俺が詮索されないためでもあった。ラフコフの内部情報を得た上で、新しいアジトの場所、地形、その規模などを攻略組にリークし、そして叩く。そうしない限りいつまで経ってもあのレッドプレイヤーたちがいなくならない。SAO攻略組の、レッドプレイヤー対応方針は"無力化、及び無期限幽閉"である。そしてそれを可能にするためには、まだ時期ではないのだ。
 けれど、それをアスナに伝えられないことには変わりない。アスナは俺の目の前で悲しくて苦しそうな表情を浮かべていた。それに対し俺は苦笑することしかできない。心配されているのはわかる。戻って欲しいという気持ちも、逆の立場であったなら痛いほどわかる。けれど、今は。

「……教えてくれないか。どうしてここがわかったんだ?まさかずっと張ってたわけでもないだろうし」
「情報誌、読んでないのかしら。《KSA》はキリトくんの捜索をしていたのよ」
「俺が情報誌で読んだ限りじゃ、"《KSA》がレッドプレイヤー討伐のため各階層を探索"としか書いてなかったけど」
「わかってて言っているでしょう、キリトくん。君を探すための方便だよ」
「他の……クラインたちは?」

 あの50階層で行われた話し合いに関しては、もうすでにアスナも知っていることだろう。俺に構うな、と忠告をしておいたはずなのに、俺を連れ戻そうと《KSA》に所属している事はアルゴから聞いている。PoHはクラインをどういうわけか気にしていたようだし、これ以上深入りすることで困った事態になるのは避けたかった。

「安心して、キリトくんが言ったことは全然信じてないから」
「──────本気、だったんだけどなぁ」

 信じてもらえないというのは、困る。あの時は監視下にあったとはいえ、口から出た言葉は本心でしかなかったのだ。PoHの俺への執着を甘くみてはならない。あいつは俺を手に入れるためなら、なんだってするのだ。もちろんそれに抵抗する俺すらも愛おしいと言っているので、判断基準はよくわかっていないのだけれども。でも、そんな男を離せないのは、俺の方だ。求められているあの熱に安心する。あの男はとても酷い奴だけれど、俺を愛してくれる。俺を愛してくれている。たとえ俺が自ら望んでレッドに堕ちたとしても、あの男は嬉々としてそれを迎え入れるだろう。むしろ、それを望んでいるような節さえある。そこまで俺を愛しているとわかるから、傷を癒す場所に選んだのだ。他の誰でもない、あの男の胸で泣くことを選んだ。選んでしまった。もう後戻りはできない。

「ここに君が来たことには驚いたけど、それで理解したんじゃないか」

 ここを通る用事のあるプレイヤーは、オレンジカーソルだったプレイヤーだけだ。むしろそれを見越してこの道を見張っていたのでなければ、運が悪いにも程がある。

「……君が手を汚したとしても、それは必要なことだったんでしょう」

 うーん、どうだろう。モルテを蹴っ飛ばしてオレンジになったから、と言って許される話だろうか。まあ許されなくても俺は後悔は一切していないけれど。

「殺しては、いないのよね」
「うん」

 それだけは、伝えておきたかった。でも、今殺していないからといってなんなのか。もう俺の手は綺麗ではないのだから、アスナがそこまで執着しなくてもいいのに。俺は清く正しい善人ではない。むしろいつだって自分のことばかり考える弱い人間なのだ。強い人間は、アスナのような人のことをいうのだろう。自分で立ち上がることができる、素敵な女性だ。
 俺が殺していないことを告げると、ほっと息を吐いた。仮にも俺は今ラフコフに所属しているのに、そんな男の言葉を信じて大丈夫なのだろうか。俺が嘘をついているとは考えないのだろうか。確か前にPoHも似たような事を言っていた気がするけれど。

「グリーンに戻ったのなら、圏内にも入れるじゃない」
「君たちは、俺がいきなり攻略組のいる圏内に入って混乱が起こるとは思わないのか?」
「それは」
「俺だって、カーソルがグリーンに戻っただけで、ラフコフから抜けたわけじゃない」

 俺はアスナにそう問いかけると同時に、コートのフードを外し、首元のタトゥーを見せた。

「ッ」
「俺はまだ、ラフコフの一員なんだ。人を殺してはいないと誓えるけれど、それとこれとは話が別だろう?攻略組の掃除も終わっていない今、俺がいきなり戻ったとして混乱が大きくなるとは思わないのか?」
「けれど、君の意思じゃないんでしょう」
「俺の意思だよ」

 はっきりと、そう伝えた。アスナが目を見開く。いい加減、わかってほしかった。俺は俺の意思でPoHを選び、ラフコフ加入を形だけとはいえ了承したのだ。

「どう、して。どうしてなの。君は、人殺しに加担するような人じゃないってわかってる。でも、その場所は君に相応しい場所じゃない」
「どうして、と聞かれるなら、逃げたかったから、って答えるよ。俺は今の攻略組が大嫌いなんだ。自分勝手で悪いと思うけれど、今俺が戻って攻略に参加しても足手まといになるだけだし、君たちは気にせず攻略を進めてくれたらいい」

 アスナにはっきりとそう伝えると、アスナは信じられない、否、信じたくないような顔で俺を見つめた。そんな目で見られても、仕方のないものは仕方がないのだ。そもそも後ろから仲間にフレンドリーファイヤされる事前提の攻略なんか嫌に決まっている。

「掃除が終わって、全部アスナが今の攻略組の内情知っても俺を呼び戻したいと思ったら、また探してよ。俺は君やクラインのことは嫌いじゃないから」
「……どうしても、だめなのね」
「どうしても、だめなんだよ」

 よかった、わかってくれそうだ。そう考えたのも束の間、アスナは「デュエルしましょう、キリトくん」と勝負を持ちかけてきた。

「……はい?」
「私が勝ったら、団長と相談して、アルゴさんに隠れ家の場所見つけてもらうわ」
「何言って」
「君が勝ったら、私はこの件にもう口を出さないと約束する。少なくとも、攻略組の内情が知れるまで」

 そう口にしたアスナは、レイピアを抜いた。俺はどういうつもりなのかと彼女の目を見ると、どうやら本気のようだった。本気で俺を無理矢理にでも連れ戻すつもりなのだとわかってたじろぐ。

「アスナ」
「いやよ、ここで黙って引き下がるなんて嫌。わがまま結構、なんとでも言って頂戴。やりようはいくらでもあるのよ。キリトくんを匿いながら攻略組の膿を取り除いてその後合流することだってできるし、君をあの悪魔から遠ざけてこれ以上前の崖下の時のような事件が起こらないようにすることだってできる!」

 アスナのその言葉に、俺は口をつぐんだ。それじゃだめなんだ、と説明しようにも、内部からラフコフを瓦解させるために今君の団長やアルゴと頑張っていますなんて言えるわけもない。俺だけが隠れていたとしても事態は変わらないのだ。こうなったらデュエルでアスナに勝って、引いてもらう他ないのだろうか。そう考えていた時、思ってもない声が聞こえた。


「──────そりゃ無理だな」


 木々の間からぬるりと腕が伸び、俺を抱きしめるように片腕が俺の腰に巻き付いた。

「「PoH……!?」」

 俺とアスナの声が重なる。接近されても気付けなかったことに動揺してしまう。なんで索敵スキル発動しておかなかったんだ、というか索敵見てる暇もなかったからだがいやそれより一体どうしてここに、NPC宿で待っているはずじゃ、と様々な疑問が湧いては消える。

「言っただろ、悪い子攫いに行くってよ」
『定期連絡怠ったら1ヶ月間誰にも見つからねーように連れ去って抱き潰すからな』

 確かに、言われた。言われたが、まさか本気で"連れ去って"の部分を実行するとは思うまい。おそらく前に送ったメッセージから時間が経ちすぎたため不審に思いここまできたのだろうが、返り討ちにしろだのなんだの言っていた割に結局こうして迎えに来るあたりが心配性なのだろうかとつい考えてしまう。
 いや、そんなことを考えている場合ではなかった。このままだとアスナが危険だ。

「引くぞ。今やりあうのはまずい」

 俺がPoHに囁くと、PoHは喉を鳴らして笑った。かと思えば、特に隠すつもりもないようでアスナにも聞こえる声量で問い返してきた。

「オレとオマエが揃ってて、引くのか?」
「ここでやり合って援軍来たらどうする。俺はまだ戻るつもりはないって言っただろ。それになんのためにグリーンに戻ったと思ってるんだ」

 ため息を吐いてそう答える。俺とPoHだけで攻略組をなんとかできるか?答えは「ヒースクリフが来ないならイエス」だ。だがそれでも殺すなとPoHに言ったところで容赦しないに決まっている。俺は言わずもがな殺さないつもりだし、相手もそれをわかっているだろう。
 しかし逃げるにしても、転移結晶ではだめだ。回廊結晶を使うとアスナまで一緒に飛ばされる。全力疾走するか、アスナに見逃してもらうしかない。

「ダメージ与えておくのも手だろ。どうせ雑魚だ」
「お前にとってはそうでも、俺にとっては攻略組の────ッしまった」

 俺はPoHの腕から抜け出すと、アスナとも距離をとった。どうして気付かなかった。アスナがここに現れたと言うことは情報提供者がいる。その情報提供者がアスナがいかに強いとはいえレッドプレイヤーと対峙するのに一人で向かわせるわけがない。脳内で最速でこの場所から離れる裏道を検索する。最悪PoHは置いていく。

「アスナ、伝言しといてくれるかな。"閑古鳥は死んだ"って」

 それだけ伝える。アルゴかヒースクリフなら伝わるだろう。そのまま俺はフードを被り直すと、持ちうる限りのスピードでアスナが来た方向とは逆に走り、折を見て森の中へ入った。ついでに俺が裏道を使えばおそらく攻略組の人間は付いてこれない。なぜ逃げたのかといえば、勘である。この勘は馬鹿にできない。毎回助けられている。今回もどうやら当たりだったようだ。

「ピナ……ッ!」
「ピィ!」

 可愛く鳴くその存在に、口元が緩みかけるがいけない。このままいけばPoHに殺されてしまう。テイムされたドラゴンの幼体など格好の獲物であるし、何よりあのPoHが俺の仲間に嫉妬しない保証がない。追ってくるとしたら《KSA》だろうとは思っていたが、危険すぎる。シリカが来ているとすればPoHには太刀打ちできない。PoHを置いてきてしまったが、あそこで一人応戦するとも思えないし、そこは信じるしかない。あとは、PoHも知らない場所にピナを誘導するしかない。

「ピナ、俺を信じてくれるか?」

 俺が問いかけた言葉に、ピナはピィと可愛らしく鳴いて返事をした。どうせならただ逃げるより、有効に使うべきだ。

「行こう」

そう言って、俺はなんの躊躇いもなく霧が立ち登る森へ迷い込んでいった。


+


 キリトが急にオレの腕から抜け出したかと思うと、意味不明な伝言を《閃光》に託して一瞬でその場から消えてしまった。追おうにもキリトの行き先が読めず、わざわざ迎えにきてやったと言うのに置いて行かれて苛立ちが募る。まあこの状況は想定外ではあったので文句をつけるならキリトよりも目の前のこの女だろう。しかしキリトが逃げに徹したと言うことはこれから面倒な相手がやってくるに違いない。そちらとは戦いたくもない。同族嫌悪、とキリトは言ったがそんなわけあるかとオレは否定している。
 キリトに逃げられたことが想定外なのは相手の女も同じようだった。この女をキリトの目の前でレイプしてやろうと考えていたこともあったが、キリトが今以上に苦しむことを今のオレは望んでいない。せっかくオレに甘えていると言うのに、自らその状況を放り出すなど馬鹿げている。この女に思うところはあるにはあるが、それはキリトがいるから感じる感情なのであって、この女単体に思うことはそう多くない。黒髪黒目の東アジア人の顔立ちでないだけマシ、と言うところだろうか。まあオレの好みドストライクのキリトが例外なだけではあるけれども。
 そんな考えをしていると、一瞬何かが横切った。それはキリトの逃げた方向に一直線に向かい、そして同じように姿を消した。全く面白くない。オレから逃げたキリトも、面倒な攻略組の頭の悪い連中も、全てが。

「いい加減、キリトくんを返して」
「凝りねぇな、貴様も。オレがキリトといちゃついてんのが気に食わねえならそう言えよ」
「そんなんじゃないわよ!いえそれもあるけど、キリトくんを傷つけた原因を生み出した貴方のところにキリトくんを置いておけるわけないでしょう!」

 それはキリトにも言われたことだが、オレはキリトを傷つけた事に関して罪悪感は微塵もない。キリトもそれは理解しているだろう。オレはただただ、猿は猿なのだなと思っただけだ。無論キリトのことではない。オレの扇動に簡単に乗った挙句考えもせず攻略組を掻き回しているらしいラフコフのメンバーについての話をしている。それを置いておいても、この女が今のキリトを癒せるとは到底思えなかった。キリトを惑わすような人間は必要ない。今こいつらにできることは、キリトをオレから奪うことではなく、身内の制裁だろうと呆れた。毎度、キリトにオレの殺しを止められた影にはこの女の協力もあったことは知っている。けれども、おそらくこの女が主力となってオレの殺しを止める手立てを考えついたわけではないだろう。
 キリトはいつだか言っていた。「彼女はオレと違って清いんだ」と。キリトは自らの手を血に染めてもこちらに堕ちない稀有な存在だ。だがこの女はキリトと違って己の手を汚してはいない。オレとこの女の違いはそこにある。同じキリトを愛している存在だろうと、今のこの女はキリトに寄り添うことはできない。

「《今のキリト》が欲しいなら、一回でもカーソルをレッドにしてきたらどうだ?」

 あえてオレンジではなくレッド、と言ったことで女の顔が歪められた。こちらは親切心で言っているのに、何を嫌な顔をすることがあるのか。まぁキリトに聞かれたらあちらも同じような顔をするだろうが、それはこの女をレッドに堕とそうとした勧誘に対しての顔だろう。それぐらいキリトは理解している。

「ま、これ以上話しててもキリトがいないんじゃ意味がねぇ」

 オレは目の前の女との話を打ち切ることを決め、キリトが後で向かうだろう最初に指定した宿へ向かう。この迷い霧の森は低階層とはいえマップが入り組んでいる挙句霧に覆われていてマップがグレーアウトしてしまいレベル差関係なく迷ってしまう。追うには不向きだ。キリトもそれがわかっていて逃走ルートに組み込んだのだろう。あの男以上にこの森に詳しい人間はいない。

「そう何度も逃げられる私じゃないわよ……!」

 アスナは先んじてPoHを取り囲むように《KSA》に声をかけている。ここでPoHさえ捕らえられれば、もうキリトを追う必要もない。何度も煮湯を飲まされてきたが、それもここで終わりだ。

「──────甘いんだよ、何もかも」

 PoHはそういうと、閃光弾を地面に投げつけた。

「捕らえて!」

 アスナはそう叫ぶが、どこにいるのかアスナすらわからない。だが近づいてくればわかるはずだ。360度どこにいても攻略組の面々がいる。攻略組の体力を一撃で0まで削るような装備やスキルは、この世界に存在しない。
 そう、思っていたのに。


「……消えた」


 誰にも見つかることなく、PoHはその場から消えていた。呆然としたアスナの呟きだけが、その場にぽつりと取り残された。



+


 ピナを引き連れてきたのは3層の黒エルフの野営地である。無論、もう彼女達のエルフ戦争クエストは終了しているため天幕などはない。エルフも当然存在していない。

「……ピナ、君だけか?シリカは?」
「ピィ」
「守ってあげなきゃダメじゃないか。俺は平気」

 俺がそう伝えると、ピナはすりすりと俺の頬に頬擦りをしてきた。かわいい。久々に癒されている。アニマルセラピーってすごい。

「俺の居場所を伝えるために俺についてるんだろうけど、ここは危ない。怖い人が追ってくるかもしれないから」

 迷い霧の森は低階層だがマップがグレーアウトしてしまうので危険だ。そういえば、シリカと初めて出会ったのは35層の《迷いの森》だったなと思い出す。どちらも人を迷わせる森だ。ますますシリカから離れてはいけない。心配そうにキリトを見ているピナに大丈夫、ともう一度伝える。

「俺はもう大丈夫だよ。とりあえず、ゴミ掃除待ちしてるだけだし」

 先程の『閑古鳥は死んだ』という伝言。アスナにもPoHにもわからないその伝言は、ヒースクリフへの合図だ。

 意味は『俺の方は準備ができた』と。それだけである。

 それだけでヒースクリフは一気に粛清にかかるだろう。アルゴと今頃最後の大詰めをしているはずだ。そちらの準備が整えば、俺も同時に叩くことができる。

「タトゥーはもういらない」

 俺を守るための人殺しのシンボル。この世界で俺を愛してくれた、怖い男の所有物の証。でももうそんなものがなくても、俺はあいつのことを──────

「今しかない」

 あの男から離れるには、もう、今しかないのだ。俺はそう自嘲気味に笑って、ピナを見た。アイテム欄を見て、ピナを守ってくれそうなお守りを渡す。白い花の首飾りのそのお守りは、ピナを一度だけあらゆる攻撃から守ってくれる。俺はもうレベル差で使えない低レベル向けのアイテムだが、腐らせておくよりいいだろう。

「じゃあな、ピナ。近いうちに、また会おうな」

 ピナは俺の目をゆっくりとその赤い瞳に写すと、空を駆け抜けてシリカの元へと飛んでいった。それを見届けて、俺はPoHの待つ宿屋への移動を始めた。もう誰も追ってこないだろう。
 それにしても、同じ赤い瞳でも、ピナの目はくりくりしていて可愛かった。あの怖い男の目は赤いと言うより紅い。俺だけを見つめる、どろりとした欲に濡れた目。それを今は嬉しく感じてしまうのだから手に負えない。

「1ヶ月足止めをなんとか回避したい」

 今の所の悩みは、それだけだった。





引き


END!
────────────
はい。とりあえずはここまでです。
グリーンカーソルに戻ったキリトくん。いよいよラフコフぶっ潰しにかかります。
ラフコフ壊滅って原作軸で何層なのか明かされてないんですけどまあこれぐらいの階層だろうと目星をつけてやっています。プログレで明かされることになったらまた書き直すと思いますがそれまではこの謎時空設定でやっていきます。
キリトくんを巡っての熱いバトルをするかと思いきやまたもや逃げられてしまったアスナさん。ごめんね。でも仕方ないんだ、捕まっちゃうと話進まないから……ごめんね……。
ピナ可愛くて好きです。ユイちゃんとキリトくんとセットで好きです。セラピー。

次回は甘々回になると思います。PoHキリ要素が少ないんじゃ。これでは詐欺になってしまう。頑張ります。
ありがとうございました!


更新日:2021.04.28

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