クエスト

 アルゴからのメールを受け取った俺は、久々にフル装備の着心地を確かめていた。思えばこの装備をしているとこのアジトでは警戒されることが多く、面倒になってワンランク下の装備をしていたのだったか。もちろんその程度で寝首を掻かれるとは思っていないが、これは久々に荒れるだろうなぁという予感はある。けれどそんなことはどうだっていいのだ。先日といい今日といい、フル装備が久々な時点で鈍っているとしかいえない。そんな状態で攻略には戻れまい。雑魚モンスターを倒してレベリングするのももちろん楽しいけれど、それより何よりやっぱりボス戦だろう。あぁ、早く戦いたい。

「……なんだ、出かけるのか?」

 思わずニコニコと笑ってしまった俺に帰ってきてドアをノックもなしに開けたPoHが問いかけてくる。

「そ。ちょっと久々にクエスト」
「──────クエスト?」

 その言葉にPoHは訝しむ。俺はPoHに簡潔に説明してやる。

「攻略組に戻るために必要なんだよ」
「……ああ、カーソル戻してェのか」
「そうだよ、誰かさんのせいで先日立派なオレンジになっちゃったからな。あいつがオレンジだったら俺はグリーンのままだったのに。なんであの時グリーンのままだったのかなぁ。外で殺してきてるはずなのになぁ」

 俺の冷えた声色に、PoHは甘い声で返した。

「オレがやり方を教えてやったんだよ。知ってんだろ」

 予想通りの答えに、俺は嘆息する。おかしいと思ったのだ。モルテが俺の監視についたのはあの59階層のいざこざというには死人も出たと聞いた大きな事件のすぐ後だ。そしてPoHがグリーンだったのはまだしも、モルテまでカーソルがグリーンだったのには驚いた。オレンジカーソルを一夜と立たず戻す方法があるのであれば、七面倒なグリーンの復帰などいらないのだから。だからこそ俺は、モルテがオレンジになっていないのではなく、オレンジになった後にグリーンに戻ったのだと悟った。流石に普通の方法ではなかったようで、そのあと俺の視界に入ったモルテ以外の幹部やそのほかのメンバーはカーソルがオレンジであった。そこまでわかればあとはもう、バグかハメ技だと自ずと答えは出る。ちなみに最初からモルテが人を傷つけていない、なんて発想はない。あいつが外に出たのであれば、まず間違いなく誰かを傷つけているだろうからだ。

「システムの事よく知らない癖に、悪用はすぐ思いつくのは本当なんなんだ。お前にそっち方面の話したのモルテだろう。外でアスナたちと戦ってた時はオレンジだったはずなのに、短時間で戻ってたって事だからな。殺し方の話じゃなくてカーソル関連だろ。ブラックが潜入した時も似たようなことしてたみたいだしな」

 俺が推測を口にすれば、PoHは正解、というように目を細めた。そして同時に不思議そうな顔をする。

「そこまでわかってて、なんで頼らねえんだよ」
「教えてくれるつもりあるのか?」
「ねぇけど」
「ほらな。聞くだけ無駄ならクエストやってきた方が早い」

 そもそもそんな危険な話を聞いて他人に注意喚起しない自信がない。悪用しない自信もない。悪用するならこいつら相手だ、それをわかっていてPoHは適当なことを口にする。まあそれはいつものことなので構わないのだけれども。
 そういうわけで肩を竦め、外に出ようと扉に手を掛ける。だがその腕を後ろに引っ張られ止められた。

「……何?」
「帰ってくる保証がねえ」
「あの面倒なクエストに付き合ってくれるなら一緒に来てくれてもいいけど」
「鉢合わせるぞ」
「攻略組にオレンジプレイヤーはいないよ。もし知り合いに見つかっても、逃げ切れるだけの策はある」

 そこまで不用心じゃないさ、と俺は苦笑した。
PoHが心配しているのは、そのクエストの道への監視だろう。俺がオレンジになれば、もしくはオレンジになったプレイヤーであればまず間違いなく通るルートというものがある。そのクエストには欠かせない素材を集めたりだとか、依頼を達成するための道順だとかに、監視の一人や二人いても驚いたりはしない。
 だがしかし、何にでも抜け道というものは存在するのだ。こいつらがハメ技を使って人を殺したり、システムの穴をついた攻撃を仕掛けたりするのと同じように。同時に、オレンジプレイヤーである現在の自分はグリーンカーソルのプレイヤーに攻撃されたとしてもPKKとなるだけで相手がオレンジカーソルになることはない。

「監視つけてもいいけど、お前レベルじゃないとついてこれないだろうし無駄だと思うぞ。他に連絡とったりもしないから安心しろって」
「オレにはしろよ」
「……善処する」
「あ?ふざけんな、絶対しろ。定期連絡怠ったら1ヶ月間誰にも見つからねーように連れ去って抱き潰すからな」

 まさか冗談を、と思って目を見れば本気だった。怖い。そんなことになったら各所に迷惑がかかる。そして俺も困る。

「……クエスト、3日で終わらせるから」
「1日だ」
「無理、ほんと無理。……2日で、頑張る」
「チッ。まあいい、ならその間、6時間に1回はメッセージ送ってこい」
「戦闘中の場合は?」
「戦闘中に送れ」
「無茶な……いや、ハイ。やります」

 やらなかったらわかってるな、という瞳に凄まれ、思わず頷いてしまった。というか、俺にとってはそれより面倒な問題があるのだが。

「攻略組の監視と鉢合わせるより、このアジトとか他の場所からレッドプレイヤーに絡まれないかの方が心配なんだけど」
「返り討ちにしてやりゃいいじゃねえか」

 あっけらかんとしたPoHの答えに、これだからこいつはあてにならないのだと眉を寄せた。

「手綱握っといてくれよ、せめて2日だけでも」
「面倒くせえしやる理由がねえ」
「俺がそのせいで死んだら恨むからな」
「死なねぇだろ。オレ以外に殺されるようなヘマ《黒の剣士》がするかよ」
「……帰ってきたらこのタトゥーも消すからな」

 自信満々に言い放ったPoHの言葉に、俺はそう返した。どうせ攻略組に戻るときにこのタトゥーは外れるのだから、もはや今更だった。だがそれを聞いたPoHは面白くなさそうにタトゥーに唇を寄せるとガブリと大口を開けて噛み付いた。

「ッ!」

 驚いた俺がPoHを睨めば、PoHは舌でその噛み跡を舐めた。力が籠っていた腕の拘束を解かれると、目元に口付けを落とす。

「ちゃんと帰ってこいよ、ブラッキー。オレがオマエを甘やかしている間だけは、オマエはオレのモンだ」
「……わかってる」

 俺はその言葉に口付けで返した。ちゃんと唇に唇を押し付けるキスである。ゆるい口付けは約束の証だ。どうせ今すぐ攻略組に戻るわけでもない。

「たった2日、お前こそ大人しくしてろよ」

 そう暗躍が趣味の男に囁くと、喉を震わせて笑っていた。その尻拭いをするのはいつも俺なので、心配がないといえば嘘になる。だがそれでもカーソルをオレンジにしてしまった以上、グリーンに戻しておかねば今後が面倒だ。

「見送ってやろうか」
「そうだな、外まで。視線がうるさい」

 ドアを開けアジトの廊下に出ると、俺とPoHを見つめるラフコフの面々がいた。お世辞にも顔や名前を覚えるのが得意だとはいえない俺は、顔を隠していることも多い人間をいちいち気にはしていない。どうせ後でまとめて黒鉄宮送りにするのだから、覚える必要もあまり感じなかった。アルゴであれば全員の特徴と名前、その所属なども覚えて情報に変えるのだろうが、あいにくと俺にそんな技能は備わっていない。
 PoHと連れ立って外へ向かっているので、そちら絡みだと判断したのだろう。特に絡まれることもなく道が開いていく。この黒い装備を着ていてもなんの警戒もされないのはありがたかったが、それだけにこいつら本当にPoHの扇動でしか動かないんだなと少々滑稽にも映った。自主的に動くような、モルテのようなタイプは珍しいのだろう。幹部と言われるだけはある。むしろ、殺せれば何でもいいというようなタイプばかりなら話は早かったのだけれども。

「あれ、お出かけですかぁ?」

 噂をすれば、というか。ひょこっと現れたいつものコイフに顔を隠したモルテがこちらに問いかけてくる。どう答えたものかな、と考えているとPoHが「散歩」とだけ答え、俺の頭をクシャリと撫でた。あまりにもその動作が自然でうわぁ、と顔を歪めそうになる。そんな俺とPoHのやりとりと見たモルテが「お供しましょうか」と問いかけてくるので俺は間髪入れず「邪魔」と答えた。モルテは先日のやりとりがあったにも関わらずめげると言う事を知らないのだろうか。普通吹っ飛ばされるほど拒絶されれば俺に構わなくなると思うのだけれども、やはりレッドプレイヤーに進んでなるようなやつの思考は理解できない。

「また蹴られたいのか?」
「アッハ、魅力的なお誘いですけどぉ……ヘッドもいる事ですしー、大人しくしておきますー」

 ひょいと肩を竦めるモルテに鼻白む。どうせ最初からついてくるつもりなどなかったのだろうに、こういうところが嫌なのだ。PoHも面倒そうにしているので、扇動方法を間違えたのだろう。腕の立つプレイヤーなだけに惜しい。真面目に攻略してくれていれば、もっと次の階層の到達が早まったかもしれないのに。命のやり取りがしたいのならば、モンスター相手で満足していればよかったのだ。

「行くぞ」

 PoHに促され、俺はモルテから視線を外した。もう興味もなかった。


+


 俺は外に足を進める間にアイテムストレージを操作し、黒いフード付きコートを引っ張り出して装備した。仮面とかもつけたほうがいいのだろうか。後でそれっぽいのを見繕っておかなくてはならない。

「お揃い」
「……可愛い事言ってんじゃねえよ」

 フードを被りながらニッと笑うと、PoHにフードの上から頭を撫でられた。最近何となくわかるようになってきたのだが、PoHは俺と殺し合うよりもこうして相棒っぽく振る舞ったりしている方が『ときめいて』いるような気がする。PoHは俺をどうしたいのかずっと疑問だったが、殺しの相棒として俺にそばにいて欲しいと思っているのかもしれない。もう殺す殺さないだけの話ではなくなっている。もちろん、殺したいほど愛している、と言うのは変わらないだろうから命の危険がなくなったわけではないけれど。それに、俺の目の前でアスナを傷つけたり、俺の仲間をボロボロにするのもまだ諦めていないように思う。俺に、自分だけを見て欲しいのだろう。だから殺したいのだ。最後に俺の目に映るのがPoHであって欲しいと、そう思っているのだろう。それを叶えてやるわけにも行かないので、抵抗はするけれども。
 完全にアジトの外に出る。森の木々に隠されたそのアジトはもう使うこともないだろう。何度も同じ場所で寝泊まりするようなヘマはしない。

「次のアジト、決まったら教えて」
「どこがいい?」
「洞窟はやだなあ。あぁ、古城の地下にでも行く?」
「デートのお誘いなら乗ってやったんだがな」

 俺がPoHと初めて会った時の事をからかって言っているのが伝わったのだろう、PoHも愉快そうに返してきた。

「あの時はどこで寝泊まりしてたんだ?」
「圏内の質のいい部屋」
「……そうだな、お前はそういうやつだよな」

 脱力した。そうだよな、わざわざ圏外のアジトに寝泊まりしなくたって、カーソルがグリーンならどこにでも寝泊まりできるのだ。こいつを圏内に招くようなアホな真似はしないが、俺だけならどうとでもなる気がする。いやまあ、圏外のNPC宿だって俺の稼ぎなら贅沢三昧できますけども。

「俺とお前だけならNPC宿でいいのに」
「先にいい宿探しといてやるよ」
「えっ、まさか本気か?」
「オマエこそ、オレから2日離れておいてまさかそのまま眠れるなんざ思ってねえよな」

 最低でも1日は2人っきりだ、と耳元で囁かれ、ぞくりと腰が疼いた。もうとっくに身体はこの男に従順になっている事実を認めたくなくて、それにこの男にばかり翻弄されるのも癪だったので、逆に陶然とした笑みを浮かべて甘ったるく返してやった。

「楽しみにしてる」

 不意を突かれたように目を見開いたPoHの顔を見て、してやったりと思った俺はそのまま先ほどから取り出しておいた転移結晶を手に持ち、PoHからするりと離れた。

『転移 ズムフト』
「キリ……ッ!」

 何か言いかけていたPoHに悪戯っぽい笑みを浮かべて俺はPoHの前から姿を消した。


+


 転移した先の第3層の転移門に、人はいなかった。そりゃあそうだ、転移門の前でいつ来るかもわからない俺を待ち伏せているなんて効率も悪いし、何より怖い。だがそれでもこのままここにいるわけにも行かない。迷い霧の森に入り、女王蜘蛛の洞窟に向かう。この女王蜘蛛の洞窟はキズメルたちのエルフ戦争クエストで一度行ったことがあるため足取りは軽い。
 この洞窟はいくつかのクエストのキーポイントとなっている。初心者がまだゲームのシステムをよく理解しておらず、意図せずオレンジプレイヤーになってしまった時の救済措置としてのクエストの一つに、この洞窟で落ちるドロップアイテムが必要なのだ。これこそが、高レベルプレイヤーにもあまり知られていない抜け道であった。この詳細を知っているのは俺の他にはベータテスターのオレンジカーソル経験者だけであろう。もちろんベータテスト以降のこのクエストの詳細は知らないが、俺が茅場の立場であるならそう大きくは変えないと踏んでいる。なんせ、このクエストは時間短縮できるとはいえ難易度が鬼畜なのだ。第3層から始まるとはいえ、普通に進めればクエストアイテムの入手は一筋縄ではいかず、七面倒と言われるだけあって拘束時間も長い。それこそがオレンジカーソルになった報いというのかどうかは定かではないが、俺はそんな悠長なことをしている時間はないのだ。このクエストの仕様を知っているが故に、難易度が鬼畜だろうが時間短縮の道を選んだ。そうしないととても2日では終わらない。
 グリーンカーソルに戻るクエストは一つではない。何せいっぺんにプレイヤーがそのクエストを受けないとも限らないのだ、いくつかのクエストを用意するのは運営としても当然の判断だろう。SAOがデスゲームに変わってしまった事で、一般プレイヤーがオレンジカーソルになる確率はグッと減った。だからこそ、レッドプレイヤーと呼ばれるその存在が余計危険視されているのだが、今の自分もレッドと変わらないオレンジカーソルである。それに首元には今は隠れて見えないとはいえ《笑う棺桶》のタトゥーが刻まれているし、過去に人を殺してしまったという意味では俺もあいつらと変わらない。けれど、進んで人殺しをしたいと思ったことは一度もない。向こうが俺を殺しにくるなら、俺も殺す。そう決めて剣を振るってはいるけれど、今となってはもう何が正しいのかすらよくわからなくなってきている。麻痺している、と言ってもいい。そうでなければ、こんな風に人殺しの証みたいなタトゥーを身体に刻まれることをよしとはしていなかっただろう。

「余計なことを考えてる場合じゃないな」

 俺は一人そう口にすると、足を進めた。洞窟の中でアイテム欄を漁り、適当に仮面を取り出して眺めてみる。

「ヘルメット系だとフルフェイスだしいいかもしれないな……でも重いか。猪の被り物?いやいやいや。流石にサングラスってわけにも行かないし……ま、これでいっか」

 取り出したのは黒いマスクだった。普通に口を覆うタイプのやつ。フードを被っているのだから、目元は見えないと判断した。それにどうせ顔が見られるほど接近されたらそこで名前でバレるだろう。
マスクを装備した俺はフードを被ったまま洞窟の奥へと進み、クエストのキーアイテムを入手した。これで俺のここでの目的は達成されたわけだ。洞窟は一本道になっている箇所が多いので、誰かと鉢合わせるわけには行かない。そうそうこの洞窟内で鉢合わせることはないと思うが、それでも警戒するに越したことはない。見張りがいるとも限らない現状では、いつどんなことが起こったとしても不思議ではないのだ。
 俺はこのSAO内でもラフコフ幹部に続いて隠蔽率が高いと自負している。無論アルゴのような特殊な存在を除いて、ではあるが。それなりに隠蔽率の高い俺が見つかるとすれば、俺以上の隠蔽率の持ち主か、ハイドを見破るアイテムを所持しているかのどちらかだ。流石にこの洞窟内まで入ってきたらそんなものがなくとも俺を見つけることができるだろうから、そんな間抜けなプレイヤーはいないだろうが。と、そんな事を考えつつ足早に洞窟を抜ける。

「……なんというか」

 拍子抜けをしてしまった。妨害に遭うこと前提で足を進めていたと言うのもあるし、自分が見つからないように他のプレイヤーが知らない抜け道やらクエストの通り道を使った事で結構な時間短縮にはなったのだが。

「こんな見つからずに進めることってある……?」

 索敵にも引っ掛からず、かといって監視があるわけでもなく。
驚くほど順調に進み、クエストは折り返しまできていた。とりあえず定期連絡、とハイドしたままPoHにメッセージを入れる。すぐに反応が返ってきて驚いた。

『別に1日で終わらせてくれてもいいんだぜ?』

 と返ってきたので、いやそれは無理、と返しておいた。折り返しだって言っただろうに。まあ早く終わるに越したことはない。油断大敵ではあるが、張り詰めすぎてミスをしても困る。それに、難易度が跳ね上がるのはここからだ。アイテム集めが前半の作業だとすれば、後半はグリーンに戻るためのクエストを受けているプレイヤーのみ出現するインスタンス・マップでの戦闘が中心となる。
 このマップは基本的にプレイヤー1人だけが参加する特殊クエストの扱いで、オレンジカーソルになった原因をシステムがスキャンし、判断する。そしてそれに応じたモンスターが用意され、そのモンスターを倒すことで現れるNPCに集めたアイテムを献上しなくてはならないと言うものだ。
 このモンスターがまあ、厄介なのである。俺は1度今と同じようにオレンジカーソルになったことがあるが、この仕様を知らなかったせいでとんでもない目に遭ったことがある。だが今日の俺は前回より装備の質やらプレイヤースキルも上がっている。前のようには行かない。

「何より、ここからは俺1人って言うのが確定してるからな」

 そう、このインスタンス・マップにはパーティを組んでいたり、ギルドのメンバーであっても入ることはできない。そのため、監視がもしついていようが妨害をするためにプレイヤーが襲いかかって来ようがなんら問題なくこのクエストに集中できるのだ。逆にいえばこのクエストでもしピンチになったとしても助けは望めないと言うことなのだが、もともとソロがメインの自分にとっては関係のない話である。

「さて、いっちょやったりますか!」


+


 結果を先に言ってしまえば、クエストは無事に終了した。晴れてこれで俺もグリーンカーソルに戻ったわけだ。鈍っていた体も久々に思いきり動かせた。他にプレイヤーもいないし、モンスターのレベルも中ボスなだけあって高く、《奥の手》の練習にはもってこいだった。スキルの練習やら切れ味を試したりできた事は今後の大きな助けになるだろう。そう言う意味では、とても充実した時間だったといえよう。そして2日以内にクリアもできた。できたことはよかった。よかったのだが。

『悪い子だな』

 ──────完全に忘れていた。言い訳をさせてもらえるなら、後半忙しくてそれどころではなかったといえばいいだろうか。戦闘中にメッセージ送る暇なんかあるわけないだろ。ちゃんと2日以内に終わったんだから見逃してくれても、と俺は縋ってみたが一蹴された。出かける前にタトゥー消すって言ったのが案外効いているのかもしれない。余計なことをしたな、と後悔しても後の祭りである。とりあえず指定された宿に向かわねばなるまい。おあつらえ向きに圏外のいいNPC宿を指定してきた。あいつは俺以上に金を使わないだろうから金はあるはずだ。ここぞとばかりにおそらく最高級の宿を取っている事だろう。それはありがたい。シャワーと食事が保証されている宿は貴重なのだ。

「1ヶ月足止めか……しかも理由聞かれても誰にも言えないし」

 と、そんな風にクエストが終わって油断していた。いつの間にか索敵にプレイヤーが引っかかっている。あーついてないな、とりあえず隠れよう。《隠蔽》スキルを上げている俺を見つけるためには《索敵》スキルを最大まで上げている必要がある。相手がそこまで索敵技能を上げて、なおかつ一点集中で俺を見破らない限りは見つかることはないだろう。そんな風に油断していた。索敵に引っかかった名前もろくに確認せずに、ハイドに集中した俺はなんと愚かだったのだろう。



「……キリトくん?」



 聞き覚えのある声が、すぐそこで聞こえた。




エスト


To be continued……
────────────
続きます。
久々にシリーズを更新できました。
PoHとのイチャイチャ成分が少ないと私の中で話題です。
次回もあんまり間が開かないように更新したいですね。

+

お久しぶりです酢酸です。
遅ればせながら20万Hitありがとうございました!
これからも愛黒剣をよろしくお願いいたします。
記念イラストも書いてみましたのでよろしければ「illust」項目も覗いてみて下さい。

更新日:2021.04.21


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