寒くて耳が痛い 4

どうして、今日はこんなにも俺の知る奴ばかりと会うんだろう。

どうして、こいつがこんなところにいるんだろう。

どうして、こいつは俺を、みつけちゃったんだろう――――――


「・・・・・・PoH」


フードをかぶったポンチョ姿は変わらない。
その独特の雰囲気も、変わっていない。

なのに、ここはSAOではなくて。

そして、おれは“黒の剣士”では、ない。

武器もなければ、体を守る防具もない。




『「こっち」じゃ、ただのガキですなぁ?』




誰かの声が、こだまする。




「偶然だな、キリト。まさか貴様と会うとは思っていなかった」


こっちの台詞だ。
さっきエギルに言った言葉を、こいつに使うなんて。

「なんで、ここにお前がいるんだよ」

緊張した手に、汗がにじむ。




周りには、どうしてだか誰も通らない。
誰も、俺たちをみていない。

エレベーターから降りて、まっすぐ進んだ先にある休憩スペース。

がらんどうとした白黒のタイルと、誰も座っていないベンチ。

デパートに流れるこの場に似合わない、ゆったりとした音楽。



「居たら悪いか?お前と会ったのは、偶然だ」

にィ、とわらうPoH。
ぞくり、と背中にはしる緊張。

「・・・クククッ。安心しろ。別にどうもしねェよ」

かつ、とこちらに踏み込んでくるPoH。

甘く吐き出される声に懐かしさを感じながら、
逃げることもせずにPoHが近づいてくるのを待つ。

あぁ、こんなことなら、さっき無理にでもエギルに
ついてきてもらうんだった。
そうしたら、PoHだって近づいてこなかったはずなのに。

「・・・キリト」

長い手がのびる。
美しい声。
なんて、懐かしい。

俺の首に、PoHの爪が触れる。

不思議と恐怖は感じなかった。
奴は、きっと俺を殺さない。
何故だか確信できた。

「逃げないんだな」

「逃げる必要がないだろ」

「huh・・・殺されるとは考えないのか?」

「自分で何もしないって言っただろ。
・・・それに・・・お前はここで俺を殺さない。
お前はそんな無謀な真似はしない」

そう言うと、PoHはハッと笑った。


「どこが無謀なんだ?貴様の口を塞いでしまえば、
誰も気付かねェ」


たとえば、こんな風にな。と俺のあごを手で固定された。


ふわり、と甘い香りがした。
溶けてしまうぐらい甘い香り。

俺を絡めとってしまうような、
甘い香り。


何をされるのかと体をこわばらせれば、
親指で唇をゆっくりとなぞられた。


そしてそのまま、思わず見とれてしまうような顔を
近づけられ、唇が触れ合うかというところで――――――――――――



「はぁー疲れたぜー!」



キリトにとっては聞きなれた声が、
その場に響き渡った。

「・・・チッ」

PoHは舌をうち、
俺から顔を離した。

「お、おい、PoH」

「・・・どうせまた会うだろう。
そのときは・・・覚悟しておけ」

どきどきする胸を押さえつけて名前を呼んだが、
PoHは身を翻し、声がしたほうとは反対へ向かって
姿を消した。



「いやー、やっぱ人に贈るもんは真心がこもってなきゃなー。
・・・・・・ん?って、ぬおおお!?」


「・・・よ、クライン」

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