「…ぬか漬けフレーバーコーヒー…?」
「そ。交通課の子から貰ったの。センスいいよね〜」
ウサはグラウンドコーヒーの袋を手に怪訝な顔をした。
「こっち一緒に飲も。誠二くんのコーヒーじゃなくってさ」
「いや…飲む以前に淹れたくないっていうか」
「どうして?」
「だってこれ絶対変な匂いしますもん」
嗅いでもいないのに鼻を摘むウサ。
「焼きウサギだ」
「え? 」
「ヤキモチ妬いてるんでしょ。女の子からのプレゼントだから、俺に飲んでほしくないんだ」
ウサはぱちぱちと瞬きをした。
「いえ、別に」
「嫌だから飲まないでって素直に言えばいいのに」
「コーヒーにヤキモチ妬く人間なんています…? まあ、今から津軽さんの分だけ淹れてきますよ。これ」
「………」
素っ気無いウサの反応。
いや、ウサが俺のことを何とも思ってないのはわかってるし。
わかってるけど。
わかってるけど、そんな風に突き放されると。
俺は給湯室へ向かおうとするウサの前に回り込んだ。
「ウサちゃんは? もしかしてまた誠二くんのコーヒーの飲むの?」
「そのつもりですけど?」
「………。それはダメ」
「何で!?」
「俺の怪我、早く治ってほしいなら一緒にぬか漬けコーヒー飲むよね」
「どーゆー理屈ですかそれ!?」
「どばかウサギ」
小さなおでこにデコピンする。
「いたっ!」
「早く淹れてきて。誠二くんのコーヒー持ってきたら、書類増やすからね」
「パワハラですよねそれ…?」
不服の表情全開のウサ。
俺のことで頭が一杯になっている様子に満足する。
(にっぶい子だよなー、ほんと)
自分の気持ちを、この鈍感なウサギに気付いてほしいのかどうか。
それはわからないから、まあ、鈍くてもいいっちゃいいんだけど。
給湯室へ向かうウサを見送っていた俺は、結局その背中を追った。
「津軽さんも来るんですか?」
「ちゃんと俺のコーヒー淹れるか見張らないとね」
「暇人…?」
「お口にロックミシンかけようね〜」
「ふがっ!」
今日も楽しく、ウサとじゃれ合った。