たまたま通りかかった給湯室から賑やかな声が聞こえた。



「ちょっと津軽さん何入れてるんですか…!?」

「アンチョビソースだけど?」

「せっかくのコーヒーが台無しじゃないですか!」

「だって全然味しないじゃんコレ。ほんとに高い豆なの?」

「だから津軽さんは無理して飲まなくていいって言ってるじゃないですか。持ってきてくれた後藤さんにも失礼です」

「…まーた、誠二くん」

「かわいそうなコーヒー…アンチョビソースで汚されて…」

「ウサちゃんのにも入れてあげるよ」

「あああっ!!」



津軽警視とSurnameさんだ。

先日のじゃれ合っている姿が思い出された。



女性公安刑事の数は少ない。

Surnameさんも久しぶりの新人だし、津軽警視からかなり可愛がってもらってるみたいだ。



(あまり話したことないけど、Surnameさんって元気な人なんだなー)



給湯室からトレーを持った彼女が出てくる。


津軽警視も追って出てきた。



「こんなものを飲むことになるんて信じられない…」

「無理して飲まなくていいじゃん」

「飲みますよ! 飲んでみせますよ!」

「誠二くんのコーヒーだから?」

「そうですよ。捨てるなんて後藤さんに悪いですから」

「………」



津軽警視は背中を丸め、Surnameさんの耳に顔を寄せた。



「ひっ!」



Surnameさんの肩が揺れる。



「い、息をっ…トレー持ってるんだから危ないですよ!」

「ばかウサギ」

「ばか!?」



ばかって何ですか、と納得がいかない様子のSurnameさん。



「…別にウサが飲まなくたって他の誰かが飲むでしょ」



ポケットに両手を突っ込んだ津軽警視は、彼女以上に不満そうな声を出した。


顔はそっぽを向いて窓の方を見ている。


けど、歩みはトレーを持つ彼女に合わせてゆっくりだ。



「もちろん私もいただきますよ、せっかくなんですから」

「じゃあさ、俺が他所の女の子から貰ったコーヒーを美味しい美味しいってガブガブ飲んでたらウサちゃんはどう思うのよ」

「え、いいじゃないですか。ありがたく飲んだら」

「………」

「何か問題でもあるんですか?」

「どばかウサギ」

「どばか!!?」



更に騒がしくなるSurnameさん。


対する津軽警視は、それ以降口を閉ざした。


その大きな背中は拗ねた子どものように見えた。



イメージとかなり違う津軽警視の姿に驚いた。



(なんか…違う人みたいだな)



二つの背中が遠ざかっていく。



何だか目が離せなかった。



二人がドアの向こうに消えるまで、そこから動けなかった。






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