揺らいでいた視界が平衡を取り戻すと、医務室の天井がやけに鮮明に見えた。
「Firstname」
覗き込んでくる津軽さんの顔もはっきりと見える。
「大丈夫?」
「…はい。楽になりました」
津軽さんは息を吐いた。
首筋に手をやって俯き、よかった、と呟く。
私はゆっくりとベッドから体を起こした。
もう大丈夫そうだった。
ここ数日立ちくらみがひどくて、さっきのようにめまいと耳鳴りが加わることもある。
倦怠感も食欲不振もずっと続いている。
これが過労から来るものなのか、それとも妊娠によるものなのかはわからない。
いずれにせよ周りに迷惑と心配を掛けてしまっていることが申し訳なかった。
「倒れるくらい体調悪かったんだね」
「…すみません」
「すみませんじゃなくて。言ってよ」
私が黙ってしまうと医務室は無音になった。
カーテンの向こうにも人がいる気配はしない。
早く公安課に戻らなければ、と思っていると津軽さんが口を開いた。
「…Firstnameは…」
躊躇いの滲む声だった。
「Firstnameは、俺とはもう話もしたくない?」
津軽さんの手が私の手に重なる。
「え?」
視線が交差すると同時に、重なった手に力が込められる。
私は言葉を失った。
津軽さんの瞳は切なげに揺れていた。
見たことのない表情だった。
私は、私の中途半端な嘘や態度が彼を傷付けていたのだと、たった今気がついた。
「俺は…」
最低だと思った。
自分のことばかり考えて、そんな目をさせてしまうくらい、津軽さんの心を傷付けていたなんて。
「ごめんなさい」
無意識に口から零れ出た言葉に、津軽さんの表情が凍りついた。
「あ、いや、違うんです!!」
私は慌てて津軽さんの手を両手で握った。
「違うんです違うんです、そうじゃなくて!! 私が全部いけないんです! 本当にごめんなさい」
今言わなければだめだと思った。
津軽さんの反応が怖いなんて、そんな自分の不安なんてどうでもいい。
私ははっきりと言った。
「生理が、来ないんです」