あれからさらに半月が経ったけど生理は来ない。
気配も一切ない。
(遅れてるんじゃない…かもしれない…)
私の不安は無視できないほどに大きくなっていた。
思わず自分のお腹に手をやる。
(いやでも! 疲れとかストレスで狂うっていうし)
最近は本当に仕事が忙しくて、疲れが溜まっている自覚がある。
捜査も書類仕事も山積みで残業続きだ。
津軽さんとマンションが同じでなかったらこうして会うこともままならなかったと思うくらい、毎日が目まぐるしい。
この疲労や不規則な生活が体に良くないのはわかっている。
でも───
あんなにきつかった訓練生時代だって、生理はちゃんと来てたのに。
(鳴子に相談しようにも…)
相手のことを聞かれたら困るからできない。
隣でテレビのニュースを観ている津軽さんをちらりと見る。
(もし本当に…子どもができてたら)
津軽さんは、どんな反応をするんだろう。
「それで盗み見したつもり?」
突然肩を抱き寄せられる。
「わっ」
「バレバレ」
津軽さんの胸に手をつく。
「盗み見なんて…」
「してたでしょ?」
大きな手が私の頬を包む。
「もっと上手くやりなよ」
ちゅ、と軽めのキス。
微笑む津軽さんと見つめ合う。
何も言えないでいると、視線を間近で絡めたまま彼の指が私の髪に差し込まれる。
それが合図のように目を閉じればすぐに唇が重なった。
少しずつ津軽さんが体重をかけてくる。
角度を変えてキスしながら、私をゆっくりと倒していく。
二人の体がソファに沈むとそれは深いものに変わり、舌を絡められれば津軽さんを覚えている体の奥がじんと痺れた。
いつもそうしているように彼の首に腕を回す。
けど津軽さんの手がニットの中に入ってきた時、私ははっとした。
「まっ待って!」
「風呂はあとでね」
「そうじゃなくてっ…あの、今日はちょっと」
お腹を撫でていた津軽さんの手が止まる。
「生理?」
その言葉に口から心臓が飛び出しそうになった。
「え、っと」
津軽さんの目を見れない。
「そう……です…」
だけど視線を強く感じる。
沈黙が流れた。
「そっか。わかった」
津軽さんの手が肌から離れる。
そして体を起こし、何事も無かったかのようにソファに座った。
私も起きて元のように座る。
「あ、焼きウサギ」
津軽さんの声に顔を上げると、いつの間にかニュースは終わっていたようで賑やかなCMが流れていた。
「飛行機になるって 」
国内線の旅客機の機体に焼きウサギが描かれる、らしい。航空会社のCMだ。
「ほんとだ…」
「焼きウサギも大成したねー」
そのあとも津軽さんは話しかけてきたけど、私は目を見て会話することができなかった。
嘘をついた罪悪感と不安感がないまぜになり、津軽さんがお風呂に立った後もずっと、息をするのが苦しかった。